子供の成長において最も重要なのが「睡眠」だと言われています。

今回は睡眠の質について現役医師の方に記事を書いてもらいました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

■はじめに

同じ時間だけ眠っているのに朝目覚めたときに、もう少し寝ていたいと感じる朝と、あースッキリした!とさわやかに起きられる朝があるのはどうしてなのでしょうか?それは睡眠の質によるのです。質の高い睡眠が取れた翌朝はスッキリと起きることができます。一方、夜の睡眠の質が低ければ、朝起きたときにスッキリとは感じられないのです。睡眠の質に高い低いは確かに存在します。では、質の高い睡眠とはどのような睡眠なのでしょうか?ここで睡眠の質について解説します。

■睡眠の質の判定は自分でできる!

睡眠の質を病院に行ったり、正確とはいえないスマホの睡眠測定アプリを使わずに判定する方法があります。それは「日中障害がないかどうかで判定する」という方法です。自分自身で日中障害を感じなければ、質の高い睡眠が取れていると考えていいということですね。日中障害とは、日中の眠気、集中力低下、ケアレスミス、作業効率の低下、短時間の眠りに落ちてしまうマイクロスリープなどの自覚症状です。これらがはっきりと自覚されるときには、質の高い睡眠が得られていないと考えていいでしょう。

■睡眠には段階がある

睡眠には大きく分けてノンレム睡眠とレム睡眠という睡眠段階があります。ノンレム睡眠にはステージⅠ、Ⅱ、Ⅲ、そしてⅣという4つの段階があり、通常これらの睡眠の段階は「ノンレム睡眠のステージⅠ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳ→レム睡眠」という順番で生じるのです。そして、これが90〜120分ほどの周期で繰り返されます。

・レム睡眠とは?

睡眠中にも関わらず目が活発に動き、その一方で筋肉は緩んで動かない身体状態を特徴とする睡眠です。この睡眠段階にあるときに覚醒させると約80%の人が夢を見ていたと報告することから、レム睡眠は夢を見る睡眠であると考えられています。
(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット「レム睡眠」のページhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-069.htmlより)

・ノンレム睡眠とは?

発達して大きくなり大量のエネルギーを消費し疲れやすくなった脳(大脳皮質)を休ませるための睡眠です。ステージⅠは電車で居眠りしていても降りる駅を乗り過ごさない程度の浅い睡眠で、ステージⅡでは乗り過ごすくらいに眠りがやや深くなります。ステージⅢとステージⅣは、ゆっくりした脳波が現れる徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠で、いわゆる熟睡状態です。
(『睡眠障害の対応と治療のガイドライン(睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会[内山真])』より)

■質の高い睡眠はなぜ必要か?

それは、睡眠には重要な役割があり睡眠の質が悪いと健康上や精神機能上の問題が生じるからです。『厚生労働省のみんなのメンタルヘルス総合サイトの「睡眠障害」のページhttps://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_sleep.html』によれば、睡眠は「心身の疲労回復をもたらす」「記憶を定着させる」「免疫機能を強化する(保つ)」などの働きがあるとしています。

また、『厚生労働省生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット「健やかな眠りの意義」のページhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-001.html』には、眠る時間がないことや睡眠障害などを含めて睡眠不足になると身体面にも精神面にも支障が生じるとしています。

例えば、先に述べた日中障害である日中の強い眠気・作業能率の低下・注意力の低下・結果的に生じる人為的ミスの危険性増大などに加え、抑うつなど精神症状の出現のリスクが生じるのです。さらに、睡眠不足は高血圧・肥満・糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高まることも指摘されています。また、多くの研究で不眠がうつになるリスクを高める(ピッツバーグ大学[米国]P.L.Franzenらの過去の研究を総括した論文[レビュー]より)ことも分かっているのです。

・睡眠が子供の成長と心身の疲労回復をもたらすことについて
睡眠時に成長ホルモンの分泌が増えることが知られています。この成長ホルモンは子供の成長を促進し、大人では生活活動で損傷された人体組織を修復をすることで疲労回復に役立っているのです(『睡眠障害の対応と治療のガイドライン(睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会[内山真])』より)。

ところがフォーシャン第一人民病院(中国)の研究では、睡眠が障害された(睡眠時無呼吸症候群)の子供は成長ホルモンの分泌量が低下するとの結果が示されました。また、睡眠時の成長ホルモン分泌パルス(一気に短時間で分泌されること)は、大人の場合には成長ホルモンの分泌の主たる供給源となりますが、男性の場合には、睡眠中の成長ホルモンの分泌パルスのうち約70%が深いノンレム睡眠中に生じるようなのです(シカゴ大学[米国]V.Cauterらによるレビューより)。したがって、成長ホルモンの分泌を促している深いノンレム睡眠が妨げられれば、子供の成長や身体組織の修復と疲労回復に問題が生じることになります。

・睡眠が記憶を定着させることについて
チュービンゲン大学(ドイツ)のB.Raschらのレビューによれば、睡眠が記憶の保持によい影響を与えることは疑いのない事実であり、覚醒時に記憶(記銘)したことを深いノンレム睡眠がまとめ上げて短期記憶から長期記憶に変換し、レム睡眠がそれを安定化させるというのです。

また、カリフォルニア大学(米国)のM.Waikerは、深いノンレム睡眠が記憶の内容を取捨選択して有用で必要な記憶だけを長期記憶に保存するという働きをし、レム睡眠はその記憶を他の情報と関連させて問題の解決やヒラメキを生み出すと述べています。これに加え、睡眠を少なくすると記憶に悪影響を与えるとの研究を紹介しています。

記憶の定着には、深いノンレム睡眠とレム睡眠の両方が欠かせないということですね。

・睡眠が免疫機能を保つことについて
睡眠とそのリズムは、免疫プロセスを強く制御しているようです(チュービンゲン大学のL.Besedovskyらのレビューより)。大塚製薬のサイトによれば、「睡眠が6時間以下で時間が短いほど唾液中のIgAの分泌量が低下」しているとの報告や「眠りの質が良い人ほど、風邪の発症率が低下」していたとという報告を紹介しています。睡眠不足が免疫に悪影響を与えることは確かなようです。

■結論:質の高い睡眠とは?

これまで述べてきたことから、質の高い睡眠とは日中障害が認められず、心と体のメインテナンスができるような睡眠です。そのためには、ベッドで横になっている時間ではなく「実際に眠っている時間が十分であること」「深いノンレム睡眠が得られていること」「深いノンレム睡眠とレム睡眠の割合が適切であること」が必要となります。これらの条件を満たす睡眠が質の高い睡眠と言えるでしょう。