大手製薬会社ロートから販売されている「セノビック」について、現役医師はどのような見解をもっているのでしょうか?

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

「セノビック」は大手製薬会社のロート製薬が、成長期応援飲料として製造販売する製品です。この「セノビック」、一時期、ネットなどの広告で「セノビックで背が伸びる」というような表現を使用していました。

これを問題視した日本小児内分泌学会は、2011年12月、「セノビック」という商品名の見直しや背が伸びるという表現の削除、ならびに「セノビック」を飲んでも背が伸びるわけではない等という注釈を明記することなどを、ロート製薬に申し入れたと推測されています(学会および製薬会社ともに詳細を明らかにしていない)。

結果として、セノビックで背が伸びるというような広告文言は削除されました。このように、いわくつきとも言える「セノビック」ですが、発売10周年を機に、成分内容を多少変更した製品にリニューアルされています。

しかし、「セノビック」の製品外装には「調整ココア」と記されており、果たして名前から連想されるような背が伸びる効果や、その他の成長促進効果はあるのでしょうか?

ここでは、成分表示や原材料表示で公開されている成分内容から、「セノビック」の有効性を検討します。

「セノビック」の広告から見た効能

ロート製薬の「セノビック」販売サイトにある広告では、1日必要量のカルシウムの88%・鉄の89%・ビタミンDの67%を補給できるとしています。

その他にも、ボーンペップ(卵黄ペプチド)・ミルクペプチド(オリゴペプチド)・ビタミンKも配合されているとのことです。そして、2017年にリニューアルされた新「セノビック」は味が3種類から5種類に増えただけではなく、5種類の味ごとに異なる栄養素が強化されています。

列挙すると、

・ミルクココア味はポリフェノール配合

・いちごミルク味はビタミンC配合強化

・バナナ味はプロテイン配合強化

・ヨーグルト味は乳酸菌配合

・ポタージュ味はDHA配合

となっているようです。ポリフェノールに乳酸菌やDHAと、「セノビック」には体にいいと言われている栄養素がたくさん含まれているという印象を受けますね。

しかし、ポリフェノールと乳酸菌およびDHAには、その含有量が明記されていません。また、これらの3つの配合成分とビタミンCおよびプロテインを合わせた5つの配合成分による効能も記載されていないのです。

「セノビック」は薬剤や特定保健用食品ではないので、効能を明確に記載できないという法的制約があるからでしょう。

では、ボーンペップやミルクペプチドを含めた「セノビック」の「売り」であると思われる含有栄養素には、どのような効果があるのでしょうか。以下に、簡単に各成分の効能について列挙します。

・カルシウム
骨や歯の構成成分であり、止血に関係したり筋肉や神経に関する重要な役割を演じています。不足すると歯や骨がもろくなります。
・ビタミンD
カルシウムやリンの吸収を促進し、血液中のカルシウム濃度を維持して、骨を丈夫にします。不足すると歯や骨がうまく作られず骨格異常や低身長を引き起こすことがあります。
・鉄
酸素を運ぶヘモグロビンの重要な成分で、不足すると貧血を起こすことがあります。また、鉄は脳の成長にも関わっており、鉄が不足すると神経細胞のシナプスという神経接合部の発達に障害が生じるともされています。
・ボーンペップ(卵黄ペプチド)
ボーンペップの特許を持つ株式会社ファーマーズが、生物工学会雑誌に投稿した論文では、『骨芽細胞増殖活性を有する物質』『ヒト臨床試験にて効果を確認』『骨伸長素材「ボーンペップTM」として大手メーカーに採用』との文言を記載しています。しかし、人間での臨床実験の社外報告は見当たらず、実際に人間に効果があるかは定かではありません。一方、ラットでの実験ではあるものの世明大学校(韓国)の研究では、卵黄プロテインを体重1kgあたり100mgの割合でラットに与えたところ、ミルクプロテインやカゼインの投与に比べて、卵黄プロテインの投与で有意に骨の成長率が増加したとしています。また、『Functional Proteins and Peptides of Hen’s Egg Origin(雌鶏由来の機能性タンパクとペプチド)』という書籍には、ボーンペップには生体でも骨成長を促進する作用があり、ラットの脛骨における軟骨細胞増殖と骨形成を有意に増加させ、結果として脛骨が長くなるとの学会報告を紹介しています。要するに、ボーンペップには骨の成長を促進する効果があり、もし脛骨の軟骨細胞を増殖させる効果が人間に対してもあるとするならば、骨端線が閉鎖していない子どもの背を伸ばすことが期待できる可能性があるということです。
・ミルクペプチド(オリゴペプチド)
オリッサ大学(インド)の研究者のレビュー報告(過去の有力な文献を総括した研究報告)によると、ミルクペプチドは機能に応じ、望ましくない微生物を抑制するミルクペプチド・免疫を調整するミルクペプチド・血圧を低めるミルクペプチド・活性酸素を抑制するミルクペプチド・麻薬様に作用するミルクペプチド(Opioid peptides:以下略してOPと表記)があるとしています。この中でも、子どもの成長に関わる可能性がありそうなのがOPです。OPの1つであるβ-カゾモルフィンは、幼児の心の安らぎと睡眠を促進するとしています。さらに、早稲田大学研究院教授の矢澤一良氏もミルクペプチドに睡眠促進効果があると主張しています。また、久留米大学教授の内村直尚氏も各種の調査報告から「寝る子は育つは本当だった」と述べていますが、「セノビック」がβ-カゾモルフィンを含むミルクペプチドであるならば、子どもの睡眠を改善して、睡眠中に多く分泌される成長ホルモンを増やす可能性が推定されると言えるのではないでしょうか。
・カカオポリフェノール
抗酸化作用・血糖値の抑制・血流の促進などに効果があるとされています。抗酸化作用により細胞が活性化することで、背の伸びに大きく関わると記載しているサイトもありますが、そういった内容を検証した研究報告は検索できませんでした。ポリフェノールは健康には良いけれども、直接的に子どもの成長を左右するような栄養素とは言えないようですね。
・ビタミンC
コラーゲンを作るのに必要なビタミンで、皮膚や粘膜の健康を維持する働きがあります。また、鉄の吸収を助ける作用や抗酸化作用もあり、動脈硬化を予防する効果が期待できるようです。不足すると小児では成長不良が生じることがあるとも言われています。東バージニア医学校(米国)の研究では、ビタミンCの摂取と成長ホルモンの分泌には正の関連があるとの結果が得られており、ビタミンCは成長ホルモンの分泌促進を介して、背を伸ばすなどの子どもの成長を促進する可能性があるかもしれません。
・プロテイン(タンパク質)
低身長の子どもの治療に精通している、たなか成長クリニックの田中敏章医師も、ぬかたクリニックの額田成医師も、ともに背を伸ばすのに大切な栄養素はタンパク質であるとしています。また、マサリク大学(チェコ)の研究によれば、ヨーロッパの国における身長の違いを説明する最も重要な要因は、動物性タンパクと植物性タンパクの比であった一方で、発展途上国の男性の身長は、タンパク摂取量と関連するという結果が得られました。タンパク質が身長を伸ばすことに良い影響を及ぼすことは確かなようです。
・乳酸菌
乳酸菌は、腸内フローラのバランスを保つことで健康に良い影響を与えます。また、自閉症児の消化器症状と同時に行動や自閉症症状も改善するという報告も複数存在するようです。子供にとっても乳酸菌は健康に良い影響を及ぼすことは確かでしょう。
・DHA
DHAを摂取すると記憶力が高まると言われています。確かにDHAの投与で未熟児の知能指数が高まるであるとか、注意欠如多動性障害や学習障害患者に対して限定的ではあるが有効であるという報告がある一方、健常者での認知機能の増強効果は認められなかったという研究があります。しかし、胎児や子どもの脳の発達に有用であると一般に考えられているようです。
・ビタミンK
止血に関わる因子の働きを強化したり、骨に含まれるタンパク質(オステオカルシン)を活性化したりコラーゲンの合成を増やして骨の形成を助けます。不足すると消化管や頭骸内出血を来すことがあります。

以上より、「セノビック」に含まれる成分は、子どもの健康や発達に良い影響を与える可能性が示されました

そこで、これらの効能を発揮するために十分量が「セノビック」に含まれているのかを以下の項で検討します。

「セノビック」の成分表示や原材料表示から見た有効性の検討

以下に「セノビック」に含まれる各栄養素の1日の必要量・食事からの平均摂取量・「セノビック」における含有量について表にして示します。

成分名 1日の必要量 注1) 食事からの平均摂取量 注2) 「セノビック」での含有量
カルシウム 550~1000mg 436~657mg 260mg
ビタミンD 2.5~8.0μg 4.4~6.5μg 2.8μg
5.0~25.5mg 4.2~7.8mg 6mg
ボーンペップ ラットで卵黄水溶性蛋白なら100mg/kgで有効 注3) 不明 100mg
ミルクペプチド 不明 不明 150mg
カカオポリフェノール 200~500mg 不明 約400mgより、かなり少ないと推定(筆者による試算)
ビタミンC 40~145mg 53~79mg 20~65mg
タンパク質 25~75g 44.6~79.9g 0.3~4g
乳酸菌 5000億~1兆個 不明 不明
DHA

(n-3系脂肪酸として)

1.1g~2.3g 1.23~2.49g 不明
ビタミンK 70~150μg 132~231μg 7μg

 

注1)1日の必要量は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の男女3歳以上49歳までの基準を引用
(ボーンペップ・ミルクペプチド・カカオポリフェノール・乳酸菌は除く・妊婦は17歳以上で計算)
注2) 食事からの平均摂取量は「平成27年 国民健康・栄養調査の概要」より引用
注3) Effects of egg yolk proteins on the longitudinal bone growth of adolescent male rats. Biosci Biotechnol Biochem. 2004 Nov;68(11):2388-90.

各栄養素の日本人の1日の必要量と食事からの平均摂取量を見比べてみると、日本人が不足する傾向のある栄養素は、カルシウム・妊婦あるいは授乳している女性におけるビタミンDと鉄およびビタミンCであるといえるでしょう(表には明示していませんが、ビタミンD・鉄・ビタミンCは、妊婦もしくは授乳中の推奨加算量を加えた値を最高値として記載しています)。

他の栄養素は、日常的な食事等から不足することはないようです。これら不足しがちな栄養素と「セノビック」におけるそれらの含有量を見てみると、カルシウム・ビタミンD・鉄・ビタミンCを補充のために「セノビック」を使用することに十分意味のある量が「セノビック」には含まれていると言っていいでしょう。

ボーンペップについては、先に述べたようにボーンペップと同様の効果を期待できる卵黄水溶性蛋白のラットでの有効量が、体重1kgあたり100mg(20kgの子どもでも2000mg)であったこと、さらには、卵巣摘出術を受けたラットの海綿状骨の減少を防止できたとする韓瑞大学(韓国)の研究では、卵黄水溶性ペプチド(ボーンペップと同様の成分)の投与量が食餌重量の0.1%(1日1kgの食事をする子どもでも1000mg)であったとしていることから推定すると、「セノビック」に含まれている1日当たり100mgという量は意味ある量ではない可能性があります。

ミルクペプチド自体の有効量もはっきりと記載した学術論文を見つけられなかったため、「セノビック」に意味ある量が含まれているか否かは分かりません。

森永乳業株式会社が開発した「ミルクペプチドMKP®」には有効量は1日100μgとありますが、「セノビック」にはミルクペプチド(オリゴミル)150mgが含まれているとのみしか記載されていません。

同じペプチドでも重さ(分子量)が異なるうえ、作用が発現する量も異なるため、「セノビック」の150mgという量が意味のある量であるかは不明です。

カカオポリフェノールについても、明確な含有量は記載されていません。ただ、原材料は成分重量の多い順に記載する取り決めとなっているため、2番目に記載されているココアパウダーは、他の成分が全く含まれていないと仮定すると、「セノビック」に含まれている可能性のあるカカオポリフェノール最大量が割り出せます。

「セノビック」1日推奨量16gに上位2つの成分しか含まれないとすると、ココアパウダーは最大で8g含まれていることになります。ピュアココアの場合は、1gあたり約50mgのカカオポリフェノールが含有されているので、1日量の「セノビック」に含まれているカカオポリフェノールの最大量は400mg未満であると推計されます。

実際は他の成分も多く含まれているため、400mgよりは大幅に少ない含有量ででしょう。「セノビック」にカカオポリフェノールが100mgでも含まれているなら、意味のある量であるのですが、なんともコメントできませんね。

タンパク質は製品により異なりますが、最も多く含まれている「セノビック」バナナ味には1日推奨量当たり4g含まれています。日本人の推奨摂取量が年齢性別などにより異なるものの25~75gですので、4gという数字は意味のある量とは言えないでしょう。

また、乳酸菌についても、「セノビック」は乳製品ではないため、乳製品に対して定められている1mlあたり1000万個の乳酸菌を満たすほどは含まれていないと思われます。

1ml=1gとして試算しても、「セノビック」の1日推奨量16gにたいして、乳酸菌は1億6000万個と、日本人に推奨される1日あたり5000億~1兆個には遠く及びません。

そしてビタミンKについても、日本人の1日当たりの摂取推奨量である70~150μgに対して、「セノビック」のビタミンK含有量は7μgと10分の1~20分の1以下であるため、ビタミンKの補充に「セノビック」を使う意味はあまりないと言えるのではないでしょうか。

結局「セノビック」はどのような人が飲むといいの?

以上、「セノビック」に含まれている有効成分の量的側面から検討を行いましたが、これまでの検討から、カルシウム・ビタミンD・鉄・ビタミンCという4つの栄養素が不足がちな偏食気味の子どもや妊娠中もしくは授乳中の女性は、「セノビック」を飲む価値はあると思われます。

ただし、日本小児内分泌学会が指摘したように、「セノビック」に子どもの背を伸ばす効果は期待しないほうが良さそうですね。

まとめ

今回、「セノビック」に含まれている成分から、「セノビック」が子どもの成長に及ぼす影響を検討してきました。日本小児内分泌学会から物言いがついたことに対して、ロート製薬は全力をあげて、子どもの背を伸ばす可能性のある栄養素をなりふり構わず投入して新「セノビック」を世に送り出してきたといった印象です。

しかし如何せん、その含有量は有効性を期待するには少なすぎるという印象もあります。

結論として述べたように「セノビック」は、カルシウム・ビタミンD・鉄・ビタミンCの補充には使用する価値がありそうです。

しかし、カルシウム・ビタミンD・鉄・ビタミンCを含め、原則的に各栄養素は、不足すると健康や発達などに良くない結果を招くことになる一方、十分足りている以上に摂取しても、より健康や発達が促進される訳ではないことを認識しておく必要があります。

それどころかビタミンにしてもミネラルにしても、過剰摂取は健康に悪い影響を与えます。まずはサプリメントに頼ることなく、バランスのとれた食生活を心がけることが先決でしょう。