魚を食べると頭が良くなるというイメージは本当の所どうなのでしょうか?

現役医師でご自身もクリニックの院長をしていらっしゃる米沢先生に記事を書いていただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

『サカナ サカナ サカナ~、サカナを食べると~、アタマ アタマ アタマ~、アタマが良くなる~』この歌詞を覚えている人も多いのではないでしょうか。

これはJF全漁連中央シーフードセンターのキャンペーンソングとして製作され、2002年にオリコンで3位にまでランクされるヒットとなった『おさかな天国』という歌の一節です。

科学者ではない作詞家が「魚を食べると頭が良くなる」と歌詞にしたほど、魚には頭を良くする効果があるということが一般に広がっていることの表れでしょう。

しかし、本当に魚を食べると頭が良くなるのでしょうか?

ここでは、魚を食べると頭が良くなるかどうかについて解説します。

魚を食べても頭はよくならない?

まず初めに、魚を食べても頭は良くならないということに関連する意見についてみてみましょう。

明治大学科学コミュニケーション研究所のサイトは、青魚に多く含まれているDHAやEPAについて、『よく謳われている「頭がよくなる」との主張の根拠は希薄』としています。

また、社団法人日本植物油協会のサイトでも、平成7年9月の日本脂質栄養学会において高校生等を対象にした調査で『一般の高校生にDHAを補給しても学力の向上は見られなかった』と発表されていることより、魚に多く含まれているDHAを摂取すると頭が良くなるという説には根拠がないと明言しているようです。

続いて海外での研究をみてみると、妊婦2400人に植物油かDHAの豊富な魚油を摂取(母乳を通じて乳児が摂取する)してもらい比較した小児栄養研究センター(オーストラリア)の研究では、魚油の摂取は、植物油の摂取と比べて、出産後の子どもの知的機能や言語の発達を改善させる効果はなかったとしています。

また、ノースカロライナ大学(米国)の研究では、オリーブオイルか魚油を、子どもが生後4カ月になるまで授乳中の母親122人に服用して授乳してもらい、子どもが7歳になったときの知的能力(処理速度・ワーキングメモリーなど)を測定したところ、母親が授乳初期に魚油を摂取することは、子どもの知的機能に悪影響を及ぼす可能性があるとの結果が得られたというのです。

さらに、スウィンバーン工科大学(オーストラリア)が行った研究では、ある種の処理機能の反応速度はDHAの摂取で改善がされなかったと報告しています。

以上の研究報告は、魚を食べても頭は良くならないことを支持するものです。

しかし、これらの研究を評価する上で注意しなければならない点があります。それは、これらの研究が魚自体の摂取ではなく、魚に多く含まれている「頭によいとされるDHAなど」という成分、もしくは魚から抽出された「魚油」の効果についての報告であるということです。いずれの報告も、「DHAなど」や「魚油」を摂取しても効果はなかったとしています。

しかし、ここでは取り上げませんでしたが、DHAや魚油が知的機能に好影響を与えるとの報告の方が多いということにも注意すべきでしょう。

魚を食べると頭が良くなる?

次に、魚を食べると頭が良くなるとする研究についてみてみることにします。

ペンシルベニア大学(米国)で面白い研究が報告されています。魚を食べる頻度を「いつも食べる」「ときどき食べる」「めったに食べない」という3グループに分けて比較したところ、魚をめったに食べない子どものグループに比べて、魚をいつも食べる子どものグループで4.8ポイント、魚をときどき食べる子どものグループで3.3ポイント、それぞれIQの値が高かったというのです。

この研究の報告者は、魚を多く食べる子どものグループでは、睡眠障害の頻度が低く、魚を食べる量が多い子どもでIQが高くなったのは、魚(に含まれるDHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸)の脳への直接効果と、睡眠の改善が神経発達に良い影響を与えたと考えているようです。

また、ヨーテボリ大学(スウェーデン)が、15歳時と18歳時にともに調査できた男子の若者3972人について、魚の摂取と知的機能との関連を調べています。それによれば、15歳時の調査で「1週間に1回以上は魚を食べていること」と、3年後の知的機能には正の関連があることが分かりました。もう少し詳しく説明すると、知的機能を9段階でランキングしたときに、「1週間に1回以上は魚を食べていること」は、総合的評価で知的機能のランクを0.58ほどランクアップするという結果が得られたのです。平たく言えば、「週に1回以上は魚を食べることで頭が良くなる」可能性があると言っていいでしょう。

さらに、ブリストール大学(イギリス)は、脂肪や砂糖を多く含む加工食品が多い食事パターンの子どもと、「魚などを含むバランスの良い健康的な食事パターン」の子どもについて、3歳時点と、その子どもが8.5歳になったときのIQについて測定した研究を行っています。その結果、加工食品が多い食事パターンは、8.5歳時でのIQと負の関連が認められる一方、「魚などを含むバランスの良い健康的な食事パターン」は正の関連が認められました。要するに、魚を含む健康的な食事パターンは、IQの向上を期待できるという結果です。

以上の報告に加えて、The Database of Raising Intelligenceという知能を高める研究を収集しているデータベースから文献的分析を行ったカリフォルニア大学(米国)の報告では、妊娠中の母がオメガ-3脂肪酸(DHAやEPAなど)を含む魚油を摂取したり、生まれた子どもにに摂取させると、子どものIQを3.5ポイント以上向上させとする報告や、妊娠中に母親がシーフードを1週間あたり340g未満の摂取である場合、言語を使った思考力や表現力の能力指標である言語性IQが下位25%グループに入ってしまうリスクが増加する(全くシーフードを摂取しないと約1.5倍)としたアメリカ国立衛生研究所の報告があります。

以上、魚を食べると頭が良くなるということを支持する学術研究について見てきました。これら多くの研究で、子どもが育つ家庭環境などの影響を統計学的手法により取り除いても、魚を食べる子どもの方が、魚を食べない子どもよりもIQなどを指標とした頭の良さは高まるという可能性が示しているようです。

結局、魚を食べると頭は良くなるの?良くならないの?

さてこれまで、魚を食べても頭は良くならないという報告と、魚を食べると頭が良くなるという正反対の研究結果の報告をみてきました。では、結局、魚を食べると頭は良くなるのでしょうか?

先にも述べたように、魚に頭を良くする効果はないとする研究の殆どが、魚の本体全体ではなく、魚に含まれる成分を摂取しても子どもの頭が良くなることはないという趣旨の研究結果でした。

つまり、魚に含まれている頭をよくすると言われている成分を抽出して摂取しても、頭はよくならないという結果を報告しているのです。しかし、先にも述べたように、頭を良くすると言われている魚に含まれる成分であるDHAやEPAが、知能の発達に有用であるという研究報告は数多くあることを踏まえて判断すると、魚を食べても頭は良くならないという意見は説得力が劣ると考えていいでしょう。

一方、魚を食べると頭が良くなるという意見について注意しなければならないことは、「魚を食べる子どもの方が、魚を食べない子どもよりも頭の良さは高まる」という結果が示す意味あいについてです。

つまり、「魚を食べさせると、子どもの知能を本来的に期待できる程度を超えて向上させることができる」のか、「魚を食べないと、子どもの知能は本来的に期待できる程度より劣るレベルにしか到達しない」のかということです。

ところが、魚をたくさん食べることが、本来到達すると期待される知能のレベル以上に知能を発達させられるかどうかを調べる方法はありません。

魚を食べさせた場合に到達する知能の高さと、魚を食べさせなかった場合に到達する知能の高さを、同じ子どもで比べることができないからです。

しかし、魚を多く食べた子どもの方が、魚をより少なく食べた子どもよりも知能が高いという研究結果は、魚を食べないと「頭の良さが本来到達するであろうと期待されるレベル」よりも低下する可能性があるということを示していると言えるでしょう。

さて結論ですが、「魚を食べても本来的に期待できる以上に頭をよくするとは言えない」けれども、「魚を食べないと本来的に期待できる頭の良さに到達することができない」と言っていいのではないでしょうか?

おわりに

魚には、DHAやEPAのほかにも、カルシウムやタンパク質、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンE、鉄、亜鉛、セレン、タウリン、アスタキサンチン、イミダゾールジペプチド、アンセリンなど多くの頭や体に良い栄養素が含まれています。

とくに、DHAは中枢神経系細胞の細胞膜に特異的な構造的構成物であることが分かっています。

そして、胎児の脳におけるDHAの集積は、妊娠第3三半期(妊娠最後の3分の1の時期)に主に生じ、2歳の終わりまで大変高い割合て続きます。

人体でα-リノレン酸からのDHAの生産は少ないため、DHAを魚から摂取することは適切な脳の発達に必要となるのです。

こう言った事実から、魚を食べべないことが子どもの脳の発育すなわち頭をよくすることに悪い影響を与える可能性が高いと言えるでしょう。

やはり、魚を食べることは良いことであると言っていいということですね。