牛乳=カルシウム豊富=背が伸びるというイメージがありますが、果たして本当でしょうか?

今回は長年の疑問に答えていただくべく現役医師の方に記事を執筆していただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

我が子が他の子どもよりも目立って背が低いときには、親としては背を伸ばしてあげたいと願うものです。

また子ども自身も、他の同級生たちより自分の背が低いときには、自分の背を少しでも伸ばせたらと切に願うことでしょう。

そんな時、背を伸ばすために手軽にできる方法は、背を伸ばすために良いとされる栄養素の摂取です。その中でも最もポピュラーなものが牛乳でしょう。確かに世間では牛乳を飲むと背が伸びると信じられています。

しかし、果たして牛乳を飲めば背は本当に伸びるのでしょうか?

ここでは牛乳をたくさん飲むことで、背を伸ばすことができるか否かについて検討します。

牛乳を飲んでも背は伸びない?

「牛乳で背が伸びると言うのはウソ」であると、たなか成長クリニックの田中敏章医師は明言しています。

田中医師によれば、背を伸ばす栄養素は牛乳に多く含まれるカルシウムではなくタンパク質であり、牛乳はタンパク質の含有量は少ないとしています。

また、日本テレビの特命リサーチ200X-Ⅱ(テーマ:どうすればもっと身長を伸ばすことが出来るのか?)に出演したぬかたクリニックの額田成医師も、牛乳で背が伸びるという意見に反対する1人です。

額田医師も次のように主張しています。

牛乳にはカルシウムは多く含まれているものの、背を伸ばすのに必要なタンパク質はあまり含まれていない。

よって牛乳を大量に飲んでも思ったほどタンパク質は摂取できない。また、却ってお腹が一杯になって他のものを食べられないことがあると警告もしています。ちなみに100gあたりのタンパク質含有量は牛乳3.3g・鶏卵12.3g・牛もも肉21.2gですので、牛乳はタンパク質の供給元としての意義は少ないと言えるでしょう。

さらに我が国の調査について見てみると、小学校4年生時と中学1年生時という3年間の間隔をあけて観察できた男女536名を調査した日本大学の研究では、牛乳の摂取量と身長の伸び具合には関連が認められなかったとしています。

加えて、小学生1338名を調査した中国短期大学の研究でも、牛乳の飲用料と身長との間に関連は認められないという結果が得られました。

このように、低身長の子どもを実際に治療している医師の意見や日本での調査では、「牛乳を飲むと背が伸びる」という考えを否定する意見が多いようです。

牛乳を飲むと背が伸びる?

日本の研究でも「牛乳を飲むと背が伸びる」という意見を支持する報告があります。

一般社団法人Jミルクが小学4年生92人について3年後の背の伸びを調査したところ、牛乳を1日500ml以上摂取する子どもの方が、3年間での背の伸びは平均で2.5cm大きかったとしています。

さらに、仙台医療センターの研究では、牛乳アレルギーの子どもの標準身長に対する「身長の低さの程度(身長の標準偏差)」における1年後の「改善(身長の低さの程度が少なくなること)」と関連する要素は、牛乳アレルギーが解消されて「牛乳が飲めるようになっていること」であるとしています。

つまり、「牛乳を飲める」ようになると「背の伸びが良くなる」という結果が得られたということです。

続いて海外の研究を見てみると、ジェームズマジソン大学(米国)の研究では、成人の身長は「5〜17歳での牛乳消費量と正の関連」が認められました。

また、マヒドン大学(タイ)の研究では、12〜18歳の男女1000人以上を調査したところ、「背の高いグループ」で統計学的に有意に「牛乳の摂取量が多かった」としています。

さらに、英国医学研究審議会が、7~8歳の子どもに牛乳190mlを摂取させる群と摂取させない群を比較したところ、身長の伸びの平均差(処置によって平均で結果がどのくらい変化するかを予測する指標)において、21.5ケ月後の身長は「牛乳190mlを摂取したグループ」の方が「約3mm大きかった」という結果が得られたようです。さらに加えて、社会史国際研究所(オランダ)が行なったメタ分析研究(過去に報告された研究のデータをたくさん集めて再分析した研究)では、「1日あたり約245mlの牛乳の摂取」が、牛乳を摂取しない場合に比べて「1年につき約4mmの追加される身長の増加」を見込めるとしています。

牛乳を飲むと背は伸びるの?伸びないの?

これまで述べた研究報告を眺めてみても、牛乳で背が伸びるという報告と伸びないという報告がともに存在するようです。

ここで研究報告の質という点から考えてみることが必要となります。

おおまかに言って、研究報告として信頼性や重要度が高いものは、ランダム化比較試験、メタ分析研究そしてレビュー報告(信頼性の高い研究)が上げられます。

症例報告やアンケート調査などは信頼性は劣ると考えられています。ここで取り上げた研究報告のうち、牛乳を飲むと身長が伸びないとした研究報告は全てアンケートに基づく調査であり、信頼性は劣ると考えられます。

一方、牛乳を飲むと背が伸びるとする研究報告の中で信頼性の高い研究は、英国医学研究審議会と社会史国際研究所の研究です。しかし、英国医学研究審議会の研究では、子どもが4人以上いて学校で無料の食事の供給を受けている児童(家庭での栄養摂取状態が悪いと考えられる)が研究対象の多くを占めており、一般の経済状態にある子どもに牛乳を供給しても効果は更により少ないと考察しています。また、他の食物よりも牛乳が背を伸ばすことに効果があるとしている社会史国際研究所の報告でも、背を余分に伸ばす牛乳の効果は1年で4mm程度と小さな値であり、牛乳を飲むことが背を伸ばすことに十分な効果があるとは言えないようです。

さらに、低身長の子どもの背を伸ばす治療を実際に行っている複数の医師が「牛乳をたくさん飲んでも背は伸びない!」と断言していることは、大きな意味があるのではないでしょうか。さて結論ですが、牛乳に背を伸ばす効果はないとは言い切れないものの、効果があったとしても、その程度はわずかであり、1日あたり1000mlも2000mlも牛乳を飲んでも意味はないと言っていいのではないでしょうか。

おわりに

ここでは牛乳を飲むと背が伸びるか?ということについて考察してみましたが、いかがだったでしょうか。

牛乳で背が伸びるかについては賛否両論あるようです。しかし、牛乳を飲むと背が低くなる可能性はないのでしょうか?

ここでは触れませんでしたが、牛乳には成長に関与している色々なホルモン等も含まれているようなのです。

これらの中で代表的なものは、背を伸ばすことに直接関与しているインスリン様成長因子(IGF-1)と女性ホルモンのエストロゲンでしょう。IGF-1は、成長ホルモンに刺激されて分泌され、軟骨細胞を増殖させることによって直接的に背を伸ばす作用があるものです。一方、エストロゲンは大量に存在すると骨端線(骨の長さを伸ばす部位)の閉鎖を早める作用もあるホルモンです。

牛乳には、これらのホルモン類が含まれていることが確認されています。しかし、牛乳の分泌量を増やすために成長ホルモンを乳牛に投与することが禁止されている日本の牛乳には、IGF-1はほとんど含まれていないとされているのです。

つまり、牛乳を飲むことでIGF-1が補充されることはないと考えられます。しかし、経口摂取されたエストロゲンが身体に障害をもたらす可能性や、牛乳嫌いの小学生女児の身長が最も高いとの調査報告もあり、牛乳を大量に飲むことで却って背の伸びが抑制される可能性も否定できないかも知れません。

牛乳も飲みすぎには注意しましょうということでしょう。先に紹介した額田医師が推奨するように、実際の牛乳摂取量は1日あたり500ml程度以内にとどめておくのが良さそうですね。