子供の背を伸ばす系のサプリメントなどには必ずと言っていいほど含まれているのが「亜鉛」です。

今回は果たして亜鉛に子供の背を伸ばす効果があるのか?という点について現役医師である米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

亜鉛は非常に重要な微小栄養素であり、子供の身長や体重の増加に大きな役割を担っています。

世界保健機関(WHO)によれば、亜鉛は細胞の成長などに重要であり、その欠乏は子供の成長を制限するとしているのです。

亜鉛が成長に与える影響についての研究結果は賛否さまざまであるものの、WHOとしては亜鉛の補充は5歳以下の子供の身長を改善するかも知れないとしています。

この「改善するかも知れない(may help to improve)」という表現が微妙な点なのです。WHOは、さらなる調査研究が必要であるとコメントを追加しています。

さてさて、亜鉛には、本当に子供の背を伸ばす効果があるのでしょうか?

ここでは、その疑問について考察します。

亜鉛で背が伸びるメカニズム

身長をはじめとする人間の成長で中心的役割を演じているのは成長ホルモンです。

成長ホルモンが分泌されると、成長ホルモンは骨端軟骨の軟骨細胞のDNAやRNAの合成を促進して軟骨細胞を増殖させ(長崎大学の資料)、増えた軟骨が骨化することで骨が伸びて背が伸びることになります。

この成長ホルモンは、それが放出される前には成長ホルモン産生細胞の細胞内にある小胞内に蓄積されています。この蓄積の前段階として、成長ホルモン産生細胞内の小胞体やゴルジ体という細胞内器官で、成長ホルモン同士が徐々にくっつき合って行くのですが、ベルン大学小児科病院(スイス)の報告によると、このプロセスを亜鉛イオンが促進し、それには十分な量の亜鉛が必要とされるというのです。その他、パウリスタ州立大学(ブラジル)の研究者によれば、亜鉛は、沢山の酵素に関与しており、DNAやRNAの合成を刺激する作用や軟骨細胞や骨芽細胞の複製や分化、肝臓におけるインスリン様成長因子(成長ホルモンの様な働きがある)の生成、成長ホルモンの生成、軟骨細胞におけるインスリン様成長因子の活性化、さらには骨の成長に関与するテストステロン(男性ホルモン)・甲状腺ホルモン・ビタミンD3とも相互作用するといいます。

この様に亜鉛は、背が伸びる(=骨が伸びる)ために欠かすことのできない栄養素なのです。

本当に亜鉛で背は伸びるのか?

背が伸びるためには亜鉛が必要であることはわかりましたが、果たして亜鉛を多く摂取することで本当に背を伸ばすことができるのでしょうか?

しかし、この背が伸びるあるいは背を伸ばすということについては、2つのケースを分けて考えなければなりません。

それは、「各年齢における子供の平均身長から標準偏差(ばらつき具合の指標)の2倍以上も背が低い(病的とされ治療の対象となる低身長)あるいは、そこまで背が低くはないが平均よりは低いので背を伸ばしたい」という場合と、「平均かそれ以上の身長はあるけれど、かっこよくなりたいのでもっと身長を伸ばしたい」という場合です。

残念ながら、平均以上に身長がある人の背をさらに伸ばすことに関する亜鉛の効用についての医学論文は検索できませんでした。

一方、背の低い子供に対する亜鉛の効果に関する研究は沢山あります。

いくつか例をあげてみます。まず、ナポリ第二大学(イタリア)の研究では、身長が低い子供に亜鉛(1日あたり12.5mg)を1年間投与したところ、鉄の吸収と貯蔵にかかわるフェリチンという成分が一定レベル以上ある子供だけに成長率の改善が得られたとしています。

また、リオデジャネイロ連邦大学(ブラジル)は、思春期前の背の低い子供に6ヶ月間の亜鉛補充(1日あたり体重1kgにつき5mg)を行ったところ、背が伸びる速度が増加したと報告しています。しかし、亜鉛の補充をやめると、この増加はなくなってしまったようです。

これとは逆に、エモリー大学(米国)が行ったメタ分析研究(過去に報告された論文のデータを沢山集めて再分析した研究)では、亜鉛だけを補充しても背を伸ばす効果は認められなかったとしています。しかし、このメタ分析研究より前に報告されている他のメタ分析研究では、亜鉛だけの補充で背を伸ばすことへの改善効果が認められているともしています。

さらに、アーガーハーン大学(パキスタン)が過去の研究を分析した報告は、発展途上国の5歳未満の子供について、亜鉛だけの補充が背を伸ばすことに改善効果があると結論し、この研究はWHOも参考としています。

ここで述べた他にも沢山の研究報告がありますが、亜鉛の背を伸ばす効果については、効果があるとするものと効果はないとするものがあるようです。また、男児には効果があるけれど女児には効果が認められなかったとする報告や、その逆の結果を示した報告もあり、明確な結論は得られていないといっていいでしょう。

結局、亜鉛で背は伸びるか?という質問に対する答えは、「亜鉛を補充しても背は伸びないかもしれないけれど、背が伸びる可能性を否定できない」というグレーな結論にしかならないというのが現状です。

しかし、亜鉛が欠乏している子供に亜鉛を補充することで、背の伸びの遅れを改善できる可能性は高いと言っていいでしょう。

おわりに

亜鉛が背を伸ばす効果があるのかないのかについて考察したものの、結果は、あるともないとも断定できないという結論となってしまいました。

しかし、亜鉛のサプリメントによる補充での副作用はほとんど認められないようであり、食事からの亜鉛摂取が難しい人は亜鉛サプリメントを利用することは選択肢の1つになるかもしれません。

ただし、亜鉛だけが背を伸ばす要素ではありません。

亜鉛だけを補充しても他の栄養素が不足したり、あるいは運動をあまりしない生活態度であるなら背を伸ばすことはできないでしょう。

亜鉛に頼らずとも、生活態度を適切なものに改善する方が、効果が大きいかも知れませんね。

それともう1つ、我が子の背を伸ばすために亜鉛サプリメントを使用とするときは、自己判断せず、必ず専門医のアドバイスを受けるようにしましょう。