子供のの背を伸ばす系の商品が多数販売されており、アルギニンによる子供の背を伸ばす効果が喧伝されておりますが、果たして市販のアルギニンサプリメントなどには子供の背を伸ばす効果はあるのでしょうか?

現役の心療科医であり自身のクリニックを経営していらっしゃる米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

子供の身長が伸びないことは、親にとって大きな心配となります。

特に、子供の身長が同年齢の子供の平均身長から2SD(SD:ばらつきの程度を表す数値)以上も小さいとき、病的であると診断されます。

例えば7歳と4カ月の男の子では、平均身長が約121cmで、2SD小さいと約111cmとなります。これ以上の低身長は治療の対象となるのですが、病的ではなくても、親側が自分が身長が低かったことにより辛い思いをしたなどという場合も、子供の身長が低いことを気にするかも知れません。

あるいは思春期頃の子供自身が、自分の身長の低さに悩みはじめるかもしれません。このようなときネットを検索してみると、背を伸ばす効果を謳うサプリメントの広告が沢山ヒットします。

その代表格がアルギニンサプリメントでしょう。しかし、本当にアルギニンに子供の背を伸ばす効果があるのでしょうか?

ここでは、学術論文などに基いてアルギニンの背を伸ばす効果について考察します。

背が伸びるメカニズム

背が伸びると言うのは、骨が伸びるということだと言っていいでしょう。

この骨が伸びるのは、骨の端っこにある骨端軟骨の細胞が分裂して増え、増えた軟骨が骨化して骨が伸びることになります。

この骨端軟骨の細胞分裂は主に、成長ホルモンと、成長ホルモンに刺激されて分泌されるインスリン様成長因子により促進されるのです。成長ホルモンは成長期に大量に分泌され、子供のからだが成長し背も伸びていきます。

成長期に成長ホルモンの分泌が悪くなると、子供の背も低くなってしまうのです。この成長ホルモンの分泌を促進する作用がアルギニンにあることが分かっています。

成長ホルモンの分泌試験にアルギニンが使われていることが示すように、アルギニンの成長ホルモン分泌促進作用は確かな事実なのです。

アルギニンで子供の背は伸びないという意見

アルギニンで子供の背は伸びないという意見の最右翼は、日本小児内分泌学会の見解でしょう。

日本小児内分泌学会は、2013年に『「身長を伸ばす効果がある」と宣伝されているサプリメント等に関する学会の見解(2013年3月29日公表)』として、市販されている背を伸ばすと喧伝しているサプリメントの効果についての警告を発表したのです。

詳しく知りたい場合は、日本小児内分泌学会のサイト(ここをクリック)を参照してください。ここでは、その内容をアルギニンに関連する部分のみを要約して記載します。

要約

アルギニンは成長ホルモンの分泌を促進することは確かであり、成長ホルモン分泌試験に使用されている。

しかし、この試験ではアルギニンを大量に点滴投与して成長ホルモンの分泌を刺激している。

一方、市販されているサプリメントのアルギニン含有量から考えると、規定の量を服用しても検査で投与するアルギニン量の10分の1程度にしかならない。し

かも、服用したアルギニンの全てが吸収される訳ではなく、血中のアルギニン濃度は僅かにしか上昇しない。よって、アルギニンサプリメントの服用で成長ホルモンの分泌が促進されるとは考えられない。

如何でしょうか、日本小児内分泌学会はアルギニンサプリメントの成長ホルモン分泌増強の効果を、「ほとんど100%否定」しているのです。

それでもアルギニンは効果があるかも?

日本小児内分泌学会の見解より少し前になりますが、米国シラキュース大学のKanaley JA.は、成長ホルモンとアルギニンおよび運動に関するレビュー(過去の論文を総括して検討した研究報告)を専門誌に寄稿しています。それによれば、

安静時の成長ホルモンの分泌反応は、経口的なアルギニン摂取(1日当たり4~9g)によって増強することが近年の研究から分かっている。経口的にアルギニンを使用した研究の多くでは、アルギンニンの経口摂取のみで安静時の成長ホルモンはプラス100%以上増加している。

としています。また、イタリアのトリノ大学の研究では、1日4gのアルギニン投与で成長ホルモンが増加したという結果が得られたのです。

さらに、オランダのマーストリッヒ大学の報告では、1日当たり7gのアルギニン摂取は身長の成長速度を加速したとしており、イタリアのフィレンツェ大学の研究でも6ヵ月間1日4gのアルギニンを経口投与すると、同じ子供でアルギニンを使用しないときの約2倍の身長の成長速度が観察されたとしています。

これらの研究報告から考えると、アルギニンの経口摂取により背が伸びる可能性はあるかも知れないのです。

アルギニンサプリメント使用時の注意点

子供の背を伸ばすかのような宣伝を行っているアルギニン含有サプリメントには、アルギニンが少ししか含まれていない可能性があるのです。

JAS法により原材料および食品添加物は、原材料に占める重量の割合が多いものから順に表示する義務が課されています。

仮にアルギニンが4番目に表示されているときには、アルギニンの含有量が4番目に多いということを意味しているのです。

「アルギニンの後に表示(アルギニンより含有量が少ない)されている成分」を0mgとし、「アルギニンより前に表示(アルギニンより含有量が多い)されている成分」と「アルギニン」が同量含まれていると仮定すれば、そのサプリメントにアルギニンが最も多く含まれた場合のアルギニン量を計算することができます。

つまり、「1日のサプリメント服用量(mg)÷アルギニンが何番目に表示されているかの順位番号(2番目なら2)」でアルギニンの最大含有量(mg)を計算することができるのです。例えば、それが4番目で、サプリメントの1日当たりの服用量が7g(7000mg)であるなら、アルギニンは最大で7000mg÷4=1750mg含まれている可能性があります。

アルギニンの表示が10番目なら、7000mg÷10で700mgです。そこで、実際に背を伸ばすと思えるように広告しているサプリメントを買う前に、製造元のホームページなどでアルギニンの含有量を推計してみるといいでしょう。

背を伸ばす効果を仄めかしている「あるサプリメント」の1日の総服用量は5g(5000mg)で、アルギニンは13番目に記載されています。このサプリメントの場合、5000mg÷13=約385mgが含有可能なアルギニンの最大量です。

アルギニンが成長ホルモンの分泌を増やしたり身長の成長速度を速める効果が確認されたのは、先に述べた研究報告では1日当たり4~9g(4000~9000mg)でした。385mgというのは、全く話にならない量であると言えるでしょう。

アルギニンは使用する価値があるのか?

結論から言えば「条件付きで価値あり」でしょう。アルギニンを服用しないことに比べ、服用した方が成長ホルモンの分泌は増えるのですが、運動する方が増え方は大きいのです

それでは運動とアルギニンの服用を併用すればいいじゃないか!と思われるでしょうが、

そうは問屋が卸しません。先に述べたKanaleyのレビューによると、アルギニンの経口摂取(1日7g)のみで成長ホルモンの分泌が少なくとも100%増加するのに対して、運動単独では300~500%も成長ホルモンの分泌が増えるとしています。

さらに、アルギニンの経口摂取と運動を併用すると、不思議にも成長ホルモンの分泌増加は200%程度に下がってしまうことが、過去の研究から分かっているというのです。背を伸ばすには、アルギニンを摂取するより運動だけしていた方が効果が高いということですね。

おわりに

子供の身長がどれくらいになるかを概算する式があります。「(父親の身長+母親の身長+13)÷2」というのがその式です。

ただしこれは男性の場合で、女性の場合は「+13」ではなく「-13」となります。この式が示すように、我が子がどれくらいの身長になるかは親の身長に影響されるのです。そして、双子についての研究から、身長の60~80%は遺伝により規定されると考えられています。

しかし、遺伝だけで身長が決まるのではありません。環境要因も大きな要素になるのです。先に触れた運動をはじめ、タンパク質摂取量、亜鉛、睡眠時間、虐待がないか、全般的な健康の維持などが身長に関係してくるのです。

子供の背を伸ばしたいのであれば、アルギニンなどのサプリメントに頼るよりも、子供を活動的に飛び跳ね走り回るような遊びをさせ、十分にバランスのとれた食事を工夫して、睡眠時間を十分に取らせるようにすることの方が大切だということですね。