今回は「頭の良くなるサプリメントは存在するのか?」という問題について現役の心療科医であり自身のクリニックを経営していらっしゃる米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

ネット検索してみると、頭の良くなるサプリメントの広告がたくさん出てきます。

広い意味で「頭の良くなる」という意味には、健常者や若年者の記憶力や思考力などの認知機能を向上させることと、老化などによる認知機能の低下を防いだり認知症を予防あるいは改善することという2つの意味合いがあるのです。

ここでは、前者すなわち、健常者の認知機能を改善する(頭の良くなる)サプリメントについて解説します。

頭の良くなるサプリメントとは?

頭をよくするサプリメントや薬剤は、スマートドラッグと呼ばれるものです。

これは米国ではヌートロピック(Nootropic)と呼ばれ、認知機能の中でも実行機能・記憶・創造性・モチベーションを改善するサプリメントや薬剤を指しています。

このヌートロピックと言われるもののうち、薬剤については明らかな病気でなければ使用できないうえ、日本では個人輸入禁止となってるものが多いため、ここでは日本で認可されている薬剤のみに言及しています。

中枢神経を刺激する物質

メチルフェニデート(商品名 リタリン・徐放性製剤はコンサータ)

神経刺激薬に分類されますが、医療用の覚醒剤のようなものと考えていいでしょう。メチルフェニデートには、ワーキングメモリーやエピソード記憶、衝動抑制能力、注意力、計画を立てる際の思考の反応時間、退屈な作業の効率を改善する効果のあることが報告されています。我が国では、ナルコレプシー(突然眠ってしまう病気)や注意欠如多動性障害(徐放性製剤のみ)の治療に使用され、厳密に診断された症例にしか使用が許されていません。麻薬及び向精神薬取締法により規制されている薬剤であり、一般での入手は不可能です。

モダフィニール(商品名 モディオダール)

ナルコレプシーや閉塞性睡眠時無呼吸症候群(空気の出入り口が塞がって睡眠が障害され日中の眠気を来す)の治療薬ですが、理由づけや問題解決能力を向上させるとの報告があります。

レボドパ(配合剤が販売されている)

正式名称はL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン。パーキンソン病の治療薬です。言語的エピソード記憶や記名力を改善すると報告されています。

アトモキセチン(商品名 ストラテラ)

注意欠如多動性障害の治療薬ですが、ワーキングメモリーと注意力の改善作用があるとされています。

カフェイン

ご存知のようにコーヒーなどに含まれている覚醒作用のある物質です。一部の研究では、記憶を向上させるとされていますが、パフォーマンスの改善には高容量のカフェインを摂取する必要があるようです。

ニコチン

タバコに含まれているニコチンには、巧緻運動を向上させる作用や見当識、エピソード記憶およびワーキングメモリーを改善するという報告があります。

オンジエキス(商品名 ワスノン)

オンジはイトメハギの根または根の皮を乾燥させた生薬で、発売元である小林製薬の販売サイトによれば、物忘れの改善効果が認められた唯一の医薬品であるとしています。また、漢方薬である帰脾湯や人参栄養湯、加味帰脾湯、加味温胆湯にも含まれています。ただし、オンジの適応症は中年期以降の物忘れであり、物忘れのない健常者に記憶力の向上作用があるとは言えないようです。

サプリメントあるいは食品や栄養素

イチョウ

イチョウは、小さな血管を拡張したり血液の粘稠度を減らして脳の血流を改善し、組織を障害する活性酸素を減少させ、加齢による神経伝達物質の受容体の減少を軽減するという報告があります。また健常者に対しては、気分や意識の清明さ、精神機能に有用であるとの報告がありますが、健常者に対する有用性はないとの報告もあるようです。

朝鮮人参

朝鮮人参には、アルツハイマー病の原因として重要な役割を演じているアミロイドβの毒性を緩和し、抗酸化作用を有する成分が含まれていることが分かっています。また健常者に対しては、明確な認知機能の改善効果は証明されていないとする研究と、記憶の正確さや注意作業遂行のスピードや難しい暗算の遂行に改善が認められることを示唆するとする研究があります。

オメガ3脂肪酸(DHAとEPA)

青魚などに多く含まれるオメガ3脂肪酸のサプリメントを、注意欠如多動性障害と学習障害患者に投与すると、限定的な有効性があるという研究がある一方、健常者に対して行われた研究では、認知機能の増強効果は認められなかったとしています。しかし、オメガ3脂肪酸を多く摂っている人はアルツハイマー病になるリスクが低下するとの報告があります。

葉酸

焼き海苔などに多く含まれている葉酸ですが、中年以上の健常者に葉酸を投与しても、認知機能の改善が認められなかったとする研究があります。しかし、食物からの葉酸摂取の最も多いグループでは、葉酸の摂取量が最も少ないグループに比べて、アルツハイマー病の発病率が約半分であったという研究もあり、これらの結果は、葉酸の摂取が少ないとアルツハイマー病になるリスクは高まるけれど、健常者がより多く葉酸を摂取したからといって認知機能が改善する(頭が良くなる)訳ではないことを表しているかも知れません。

テニアン

テニアンはお茶に多く含まれるアミノ酸の一種で、カフェインと併用した場合には、覚醒度や注意、作業の切り替え能力を促進することが示唆されています。

 

ビタミン類

・ビタミンB
ビタミンB類のサプリメントの使用が、健常者や認知機能が障害された人の認知機能の低下を、防止したり進行を遅らせる効果はないとの研究があります。

・ビタミンE
ビタミンEは、抗酸化作用を有し、食生活で最もビタミンEを摂取していたグループは、最もビタミンEの摂取が少なかったグループに比べて、認知症を発症するリスクが25%ほど少なかったとの研究があります。しかし、ビタミンEのサプリメントの使用で健常者の認知機能が改善する(頭が良くなる)というような研究は見当たらないようです。

・ビタミンA
ビタミンA(β-カロテン)サプリメントの使用は、平均18年ほどの長期的使用であれば、認知機能低下に対して有用な効果があるとする研究がある一方で、長期の使用でも認知機能に影響が認められなかったという研究もあり、明確な結論は得られていません。

・ビタミンC
ある研究では、抗酸化作用のあるビタミンCサプリメントの使用は、5年ほどの調査期間では、より良い認知機能が得られたものの、それ以上に調査された人のグループでは、より良い認知機能とビタミンCサプリメントの使用に関連が認められなかったとしています。

・ビタミンD
ビタミンDの不足は認知機能障害と関連するとの研究報告があります。しかし、十分な信頼性を得られる研究デザインではないため、ビタミンDが認知機能に及ぼす影響について明確な結論は得られていないようです。

プラズマローゲン

ホタテなどに含まれるエーテルリン脂質の一種であるプラズマローゲンには、活性酸素による障害を緩和する作用があるとされ、アルツハイマー病軽症例ではプラズマローゲン投与で認知機能が改善するとの報告はあります。しかし、物忘れのない人への認知機能の改善効果は確認されていないようです。

カルニチン

アミノ酸の一種であるカルニチンは、アルツハイマー病に有益な影響を与えるとの報告があるものの、健常者に与える影響については確定されていません。

結局、頭の良くなるサプリメントってあるの?

信頼できる研究デザインである、RCT研究(ある薬や治療法が有効であることを検証する研究)やレビュー研究(過去の研究を総括した研究)もしくはメタ分析研究(過去の研究データを再分析した研究)から、健常者の頭の良くなるようなサプリメントがあることを決定づけるような研究報告はないというのが現実です。

結論としては、確実に頭が良くなる成分のサプリメントはないと言っていいのではないでしょうか。

おわりに

さてどうだったでしょうか?ここでは取り上げなかった頭の良くなると謳っているサプリメントは沢山あります。

しかし、サプリメントというのは、基本的に食品と同じ位置づけです。薬剤のように薬事法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に縛られていません。

つまり、効果や副作用の検証がなされないまま販売されているのです。

検証されていないとは、効果があるということも証明されていなければ、効果がないということも証明されていないということなのです。

 

また、ビタミン類を含む栄養素などのサプリメントに関しても、ここで述べたように認知機能に対する明確な有効性が確定されていません。さらに、これらのサプリメントのなかには、服用している治療薬との相互作用や過剰服用による障害が分かっているものも多いのです。

もし、頭が良くなることを期待して何らかのサプリメントを使用するときには、信頼できる情報源(学術雑誌など)で、その有効性と副作用などについて自分で徹底的に調査してから服用するかどうか決めるといいでしょう。