今回は「起立性調節障害」について現役の心療科医であり自身のクリニックを経営していらっしゃる米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

はじめに

起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)は、少々厄介で理解もされていない身体疾患です。

身体疾患ではあるものの、不登校や引きこもりなどの心理社会的問題を引き起こしたり精神疾患を発症することもあって、単なる身体疾患とも言い難い側面を持っています。

特に、その症状は朝は悪いものの夜には改善することが普通であるため、我が子が急にだらしなくなってしまったなどと勘違いして、親は我が子を叱責したり無理やり起こそうとしたりするかも知れません。

しかし、体の病気で朝起きられないのですから叱責しても効果はありません。その状態が実は、体の病気である起立性調節障害の症状であるなら、起立性調節障害についての正しい知識を得て、病気の我が子と適切に向き合わなくてはなりません。

ここでは、多くの問題を孕んでいる起立性調節障害の概要をまず説明してから、そのような状態になってしまった我が子とどう向き合うかについて分かりやすく解説します。

起立性調節障害とは?

どのような症状が現れるのか?

起立性調節障害の症状は、体の病気であるとは理解しにくい特徴を持っています。というのも、朝は調子が悪いのですが午後には軽減しはじめ、夜になると元気になってゲームやスマホに興じたりテレビを観て笑ったりなどするようになるからです。

状態としては、体を起こしたり立ち上がると気分が悪くなるため、朝は起きられずグズグズと布団の中でくすぶっているようになります。その他、診断的には、立ちくらみ・めまい・起立時の気分不良や失神・入浴時や嫌なことで気分不良・動悸や息切れ・朝なかなか起きられず午前中調子が悪い・顔色が青白い・食欲不振・腹痛・倦怠感・頭痛・乗り物酔いという症状のうち、3つ以上に該当するか2つ以上で症状が著しいときは起立性調節障害が疑われます。

また、これらの症状から派生的に、学業成績が悪化する・遅刻が頻繁になる・不登校や引きこもり状態になるなどの心理社会的問題に発展することさえあるのです。そして起立性調節障害の人の約10%は、うつ病を発症するとされています。さらに、女性では生理不順や月経前緊張症(PMS)を発症することも少なくありません。

起立性調節障害にも種類があるの?

起立性調節障害には、4つの亜型があります。起立直後性低血圧・体位性頻脈症候群・血管迷走神経性失神・遷延性起立性低血圧です。それぞれについて簡単に説明します。

・起立直後性低血圧(instantaneous orthostatic hypotension:INOH[アイノーと発音])
起き上がったり立ち上がった直後に激しい血圧の低下が起こって、立ちくらみと全身倦怠感が生じます。起立直後性低血圧であるとするには、血圧が通常に回復するまでに25秒以上である必要があります。収縮期血圧が15%以上も低下した状態が続くときは重症型、それ以下であれば軽症型と診断します。

・体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome:POTS[ポッツと発音])
このタイプの起立性調節障害では起立時に血圧は低下しないのですが、起立時に頻脈やふらつき、倦怠感、頭痛などの症状が出現します。体位性頻脈症候群と診断するには、心拍数が起立時に115以上あるか心拍の増加が35以上ある必要があります。

・神経調節性失神(neurally-mediated syncope:NMS)
立ち上がったときに収縮期と拡張期血圧がともに低下し、失神してしまうタイプの起立性調節障害です。起立時、激しい頻脈が生じますが、ときに徐脈が生じることもあります。

・遷延性起立性低血圧
起立直後は異常はないのですが、立ち上がってから数分以上経ってから徐々に血圧が下がり出して、収縮期血圧が15%以上あるいは20mmHg以上低下するときに遷延性起立性低血圧と診断します。

以上の4つの亜型とは別に、近年、脳血流低下型と高反応型という2つの新たな起立性調節障害の亜型が提唱されています。まず、脳血流低下型は、起立試験では血圧と心拍数が正常なのですが、オキシヘモグロビン(酸素と結合した形のヘモグロビン)濃度が低下しており、脳への酸素供給に問題があるものです。続いて高反応型ですが、これは立ち上がることで収縮期血圧が160mmHg以上に上昇するか50mmHg以上増加するタイプです。

起立性調節障害の症状が発生するメカニズムは?

人間は、寝ている状態から立ち上がると、血液は重力によって下の方に移動します。立位で一番上にある脳の血液も下に移動し血圧が下がります。

下半身に血液が溜まってしまうので心臓に戻ってくる血液も減ることになります。これを防ぐため、正常では交感神経を介してノルアドレナリンが分泌され血管が収縮し、心臓も拍動を増やして血圧を保つのです。

しかし、起立性調節障害では、この調節機能が障害されて脳への血流が低下してしまいます。亜型毎に発症メカニズムは多少異なりますが、混乱を避けるためここでは説明を省略しています。

起立性調節障害の頻度は?

1999年にまとめられた厚生省(現在の厚生労働省)の調査では、小児科を受診した10〜15歳の患者のうち約8%が起立性調節障害であったとしています。

また、小学生の約5%、中学生の約10%が起立性調節障害であるとも見積もられており、不登校の40%に起立性調節障害が合併しているという報告もあります。

さらに、中等症以上の起立性調節障害の中学生では、定時制や通信制の高校でなければ学業を継続することが難しい場合が多いという意見もあります。

治りにくくなる要因は?

生活リズムの乱れ・運動不足・食生活の乱れ・発症以前から存在する未解決の心理社会的問題(家族関係や学校の友人関係での問題など)・起立性調節障害に対する理解不足により生じる家族関係の悪化・学校関係者の認識不足に起因する信頼関係の悪化・学業成績の悪化などによる自尊感情の低下・長期化する引きこもり状態・精神疾患の併存や発症などがあると、起立性調節障害は治りにくくなります。

起立性調節障害はいつまで続くの?

軽症例では、適切に治療すれば数ヶ月で改善します。

しかし、不登校が長期に及んだりする重症例では、回復までに2〜3年以上を要し、引きこもり状態となって、せっかく進学した高校を中退しなければならなくなることもあります。中等症(日常生活に支障が生じている状態)の起立性調節障害の回復率は、1年後で約50%、2〜3年後では70〜80%であるとされています。

また、重症(不登校をともなう状態)の起立性調節障害の1年後の復学率は30%程度ということです。そして、成人になっても症状が持続する患者は約40%いるとの報告があります。さらに、成人してからも社会復帰がなかなかできない症例も稀ではないようです。

 

起立性調節障害の我が子に向き合う際に留意するポイントは?

起立性調節障害の我が子に向き合う基本的留意点は、我が子が安定した精神状態を保てるように寄り添い、我が子が自発的に日常生活の改善や薬物療法に取り組めるように支援することです。そうなるためには、我が子の現状を受容し、信頼関係を強化する必要があります。これを前提として、以下に我が子との向き合い方のヒントをいくつか列挙します。

・親子関係を良好に保つ

我が子との親子関係を良好に保つことの最大のネックは、起立性調節障害という病気に対する親側の理解不足であると言っていいかもしれません。

起立性調節障害で生じている朝起きられないなどという我が子の状態が、実は体の病気の症状であると理解できれば、ある程度までは、我が子の現状を受け入れ、共感的に接することができるようになります。受容的で共感的な態度で子どもに接することができれば、我が子の起立性調節障害の予後に良い影響を与えることができるのです。加えて、親子関係を良好に保つために必要なもう一つの要素は、子どもの性格特性を理解することでしょう。

起立性調節障害の子どもは、小さい頃から自分の欲求を抑えて、親など周囲の人の期待に応えようと行動する傾向があるのです。こういった性格傾向のある子どもは、自分の気持ちを言葉に出して表現するのが苦手で、自分のストレスを自覚することさえ難しい失感情症と呼べる症例が少なくありません。これらの特性は心身相関によって自律神経機能に悪影響を与えるのです。子ども悩みやストレスを言語化できるよう、受容的な態度で子どもとコミュニケーションを取るようにしてください。

・子どもの不安や自尊感情の低下を理解する

子どもの側からすれば、学校に行こうと思うけれども、きつくて、めまいがして、立ち上がることができないのです。

親が学校に行くことを期待していることは子どもは十分に分かっています。行こうと思うけれど行けない自分の状態への不安と混乱の中にあって、闇雲に行くようにと強制する親に子どもは反抗心を募らせるでしょう。それでも子どもは親に大切にされたい理解されたいという依存願望を持っています。

反抗心と依存願望という両価性感情によって、子どもの精神状態は非常に不安定なものとなってしまうのです。

さらに生活機能の低下や学業成績の悪化から、起立性調節障害の子どもの自尊感情は著しく低下しています。こんな時に、親が我が子の自尊感情をさらに悪くするような発言や不用意な叱責は、ますます子どもの自尊感情を低下させてしまうのです。このような子どもの自尊感情の低下を理解して、支持的で受容的な態度で我が子に接するよう意識してください。

例えば、登校時刻になっても起床できないとき、病状から午前中の起床が困難なのです。仮に起きることができたとしても、座ったり立ったりすることで著しい血圧低下や頻脈、脳血流の低下が発生してしまい、食事や身づくろい、起立、歩行などに障害が生じます。

また中等度から重症例では、朝起きることができず学校に行けないことも多いにもかかわらず、夜になるとTVゲームやスマホに熱中したり夜更かしするため、生活態度が悪くなったであるとか怠け癖がついてしまったであるとかなどと勘違いし、怒ったり無理やり学校に行かせようとして、親子間で心情的な溝ができてしまうものです。身体的な問題で起き上がれないのは、インフルエンザで40℃近い高熱を出しているときに起き上がれないのと同じです。

根性論的な叱責は百害あって一利なし!メリットはありません。どんな親でも根性でインフルエンザを治せとは言わないでしょう。起立性調節障害は身体的な疾患であり、根性論や心がけの問題ではないと親が認識する必要があります。根性論的に子どもを責めれば、反抗心を誘発するだけではなく、子どもの自尊感情を低下させることになって、症状の改善が得られにくくなるのです。

・生活習慣の改善のための援助

我が子の生活習慣について気に留めておくことも重要です。生活リズムの乱れや長時間のスマホやテレビゲーム、パソコンなどの使用は、自律神経機能を悪化させる原因となります。しかし、強圧的な指導や叱責は逆効果となります。

起床時や就寝時には叱責せずに、「いま◯◯時よ」と声かけだけを行うようにしましょう。けっして「もう◯◯時よ!」とか、ましてや「今何時だと思ってるの!」なんて言うのは禁句です。また、眠るべき時刻になっても眠れないときにも、まずは寝ない理由を優しく聞いてみましょう。

その上で、寝つけなくても部屋を暗して横になっていることで、睡眠リズムに良い影響を与えられるのだと伝えるようにしましょう。そして、ゲーム機器の使用が数時間にも及ぶ場合にも頭ごなしに叱らず、起立性調節障害を治すためにはゲーム機の使用は1日1時間程度にするよう医師から指導されていることを伝えましょう。禁止だ!メッセージではなく、自分の意志で自制しようねメッセージを発信するのです。

ところで、歩くことが極端に少なくなると下肢や体幹の筋力が低下して、起立時の下半身の血液貯留が増加することになります。下肢に血液がたまる量が多くなると、心臓への血液の戻りが悪くなり脳に送られる血液量も少なくなって、起立性調節障害の症状を悪化させます。

運動を助言したり家事を手伝ってもらうよう上手に誘ってみましょう。1日30分以上は散歩するよう話し合ってみましょう。

ただし、くれぐれも強圧的にならないよう注意してください。また、水分摂取量が少なくなると、循環血液量の低下をきたす場合がります。1日に1.5〜2リットルの水分を補給するよう気を配ってあげましょう。

さらに、塩分(ナトリウム)摂取量が少なくなっても血圧が低下する可能性があり、高血圧の人とは逆に毎日10〜12gの塩分を摂取できるよう食事に注意してあげましょう。これらの支援では、我が子が自らやってみようという気になるように導き、ともに歩んで行く姿勢が大切です。

・服薬の援助

服薬は子どもの自己管理が原則です。服薬に嫌な感情を持っている子どもに服薬を強制すると、効果のある薬であってもその効果が得られなくなるノセボ効果という現象が生じることがあります。また、押し付けは子どもの反抗心を誘発して、親子関係が悪化してしまう可能性もあるのです。

子どもが自主的に服薬できるよう親がサポートするようにしましょう。薬の効果が得られないときは、薬をやめてもらったり変えてもらったりすることを保証して、一定期間はきっちりと服薬するよう受容的態度で子どもと話し合ってみましょう。

・学校の協力を得る

学校関係者の起立性調節障害への認識不足から、学校と親および子どもとの信頼関係が悪化することがあり治療の妨げとなります。先生も起立性調節障害についての知識をあまり持っていないことが多いのです。

学校の先生にも主治医と連絡をとってもらい、起立性調節障害の知識を得るようにしてもらって、子どものストレス要因を減らすよう学校側にも協力を仰ぐことが大切です。

・親自身が自分の心と向き合う

親自身が、焦りや不安に圧倒されていないか?子どもへの対応に自信を無くしてしまっていないか?など、自らの心に向き合うことも重要です。親に過剰な焦りや不安が生じるのは、親自身が起立性調節障害を体の病気であると十分には理解していないことが第一の原因です。

しかし、もし我が子に親自身が果たせなかった夢を代わりに達成させようとするような親側の無意識の願望を我が子に託そうとしているなら、親の焦りと不安を克服することや、起立性調節障害になった我が子の存在を受容することは難しいかも知れません。

あるいは、親自身がうつ病などの精神疾患にかかってしまっている場合も、我が子への対応に不都合が生じる可能性があります。どうしても我が子の現状を受容できないときには、親自身が心療内科や精神科を受診する必要があるかも知れません。我が子の主治医に取り急ぎ相談することをお勧めします。

・世間並みであることに執着しない

起立性調節障害の子どもは午前中が特に不調になるため、体調が回復してくる午後から保健室などに登校したり、適応指導教室への通級や民間のフリースクールを利用することを受け入れましょう。高校の進学先についても、重症例は高校進学後も症状が改善せず通学に支障をきたすことが稀ではありません。

中学校3年生時点で不登校を伴っている子どもが全日制高校に進学すると、高校2年生までに約7割が中退や転校することになるという報告があります。

全日制高校への進学を諦め、定時制高校や通信制高校に進学するという選択肢を受け入れることも必要になる場合があるのです。さらに、高校卒業程度認定試験の予備校などもあるので、それも選択肢に入れておくといいでしょう。

関連:通信制高校の選び方

・隠れた精神疾患の可能性を忘れない

朝起きられず学校に行けないことが、うつ病などの精神疾患で生じていないかと疑うことも大切です。夕方〜夜になっても生活の活動性が改善しないときには、うつ病などの精神疾患ではないかと疑ってみる必要があります。精神疾患の疑いが考えられるときには、小児精神科医の診察を受けることも検討してください。

おわりに

他の子どもが普通に行えていることができていない我が子に、冷静に対応することは本当に難しいことでしょう。しかし、もしその状態が起立性調節障害に起因するものであるなら、薬物療法を含む医学的対応法があります。

引きこもりであるとか不登校であるとか決めつけずに、まずは正確な診断を適切に診断できる専門医に診てもらうことが最優先事項です。起立性調節障害は思春期に発症することが多いため、高校や大学受験に影響を与えてしまったり、成人になってもフルタイムでの就労ができない状態が持続する場合もあって、人生に大きな爪痕を残すことにもなりかねません。ですから、より早期に発見して治療を行なって行く必要があるのです。

ここで解説した診断の目安なども参考にして、より早期に適切な医療機関を受診して正確な診断を確定してもらうようにしてください。そして、もし起立性調節障害と診断されたのであれば、ここで述べた子どもへの向き合い方を参考にしてみてください。