「広汎性発達障害」という言葉は年々認知度が上がっていますが、実際にその内容について説明できる人は多くないものと思われます。

今回はそんな「広汎性発達障害」について赤坂心療クリニック院長米澤利幸先生に記事を書いてもらいました。

はじめに

広汎性発達障害という用語は、注意欠陥障害やアスペルガー症候群などに比べると、あまり聞きなれない言葉でしょう。

そして、広汎性発達障害・自閉症・自閉性障害・非定型自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群・自閉症スペクトラム障害などなど、同じような状態像を指す色々な用語が目に触れる昨今です。

これらの用語の指し示す内容は微妙に異なるようなのですが、その違いを明確に説明できる人は、専門家にも少ないというのが現状ではないでしょうか。ここでは、特に分かりにくい広汎性発達障害を主題として、この分かりにくい病態についてできるだけ分かりやすく解説します。

広汎性発達障害におけるICDとDSMの位置づけ

広汎性発達障害について述べるときに、どうしてもICDとDSMという診断のガイドラインについて述べなければなりません。

ICDというのは、ご存知の方も多いと思いますが、世界保健機関(WHO)が作成した国際的に利用されている診断分類のことです。

一方、DSMとは、米国精神医学会が作成した精神疾患の分類と診断のための手引です。

ICDの最新版であるICD-10とDSMの最新版の1つ前のDSM-Ⅳ-TRまでは、ICDとDSMはほとんど同じものであると言っても良いほど分類が似たものでした。しかし、DSMが2013年に改定されてDSM-5となってから、広汎性発達障害という用語がDSMから消えてしまいました。

同時に、アスペルガー症候群という疾患名も採用されなくなって、広汎性発達障害に分類されたいた診断名の多くが自閉症スペクトラム障害という分類名に統合されてしまったのです。もともと分かりにくかった広汎性発達障害が、さらに分かりにくくなってしまったと言ってもいいかもしれません。

ここでは最新の分類であるDSM−5と、ICD-10およびDSM-Ⅳ-TRにおける広汎性発達障害の分類を比較して説明することにします。

広汎性発達障害とはどのような病態か?

広汎性発達障害の全般的特徴としては、ICD−10では次のように説明されています。多少表現を変えたり省略している部分もあるので、詳しくは成書を参照してください。

「社会における相互的な関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害」および「極めて限られた領域に対して、常に同じで、繰り返される関心と活動の幅の狭さ」によって特徴づけられる一群の障害。

これらの質的な異常は、あらゆる状況において、その個人の機能に広汎にみられる特徴となっている。
この障害は個人の精神年齢(知能における遅滞のあるなしにかかわらず)に比較して偏った行動によって定義される。

ちょっと分かりにくいのですが、社会的スキル・言語・コミュニケーション様態・行動に遅れや逸脱があって、限られた領域に一風変わった著しく強い興味を示し、変化を嫌って変化する状況に抵抗し、社会の中で置かれた状況に適切に対応できない状態像であると言ってもいいかも知れません。そして、広汎性発達障害の最も代表的な病態が自閉症(自閉性障害)です。しかし、広汎性発達障害=自閉症とは言えないところが分かりにくい原因でしょう。この分かりにくい広汎性発達障害について理解しやすいように、まず診断基準別の下位分類について解説します。

広汎性発達障害:ICD−10の場合
ICDの疾病分類は、1990年に改定された第10版であるICD−10が最新の分類となります。このICD-10において、広汎性発達障害は、次のような8つの病態に下位分類されています。実際の分類が記載されている順番を多少変えて記載しているので注意してください。

小児自閉症
非定型自閉症
アスペルガー症候群
他の小児期崩壊性障害
他の広汎性発達障害
広汎性発達障害,特定不能のもの
精神遅滞および常同運動に関連した過動性障害
レット症候群

それぞれの説明は後述します。

広汎性発達障害:DSM-Ⅳ-TRの場合

 

DSMの最新版であるDSM-5の1つ前のDSM-Ⅳ-TRにおいては、広汎性発達障害は次のように5つの下位分類がありました。これも本来記載されている順番を変えているので注意してください。

自閉性障害
アスペルガー症候群
小児崩壊性障害
特定不能の広汎性発達障害
レット症候群

DSM-5での変化
DSM-5からは、広汎性発達障害という分類自体がなくなり、代わって「自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorders:ASDという略もよく使用される)」という分類となりました。ICD-10の次に作成されるICD-11でも、DSM-5と同様の分類が採用されると見込まれています。なお、DSM-5とDSM-Ⅳ-TRおよびICD-10で分類を比較すると次のようになるでしょう。


DSM-5

DSM--TR

ICD-10

自閉症スペクトラム障害
自閉性障害
小児自閉症
非定型自閉症
アスペルガー症候群
アスペルガー症候群
小児崩壊性障害
他の小児期崩壊性障害
特定不能の広汎性発達障害
他の広汎性発達障害
広汎性発達障害,特定不能のもの
知的能力障害群に包含? 精神遅滞に包含?
精神遅滞および常同運動に関連した過動性障害
該当疾患の記載なし
レット症候群
レット症候群

広汎性発達障害の分類と診断について

広汎性発達障害(≒自閉症スペクトラム障害)の診断は、DSM−5やICD-10の診断ガイドラインに従ってなされることになります。それぞれの診断ガイドラインをここで正確に記載するには膨大な文字数を必要とするため、ここでは分かりやすい表現で記載したり、簡単な特徴について記載することとします。関心のある方は成書を参照してください。

ICD-10における広汎性発達障害の分類基準
最も下位分類の多いICD-10の広汎性発達障害の分類基準から簡単に説明します。

小児自閉症

3歳以前に出現する、(1)社会における相互的な関係(2)コミュニケーション(3)少ない領域に限られた繰り返される行動という3つの領域すべてで見られる特徴的な型の機能異常であり、以下に示される特徴がある。
「他人が感情を表に出していても、それに反応が見られない」および/または「状況や場の流れに応じて行動を調節することがない」というような「社会的-情緒的な手がかりに気づくことの不適切さ・社会的信号の使用のまずさ」と「社会的・情緒的およびコミュニケーション行動のまとまりの弱さ」そして特に「社会的-情緒的に互いに応答し合うことの欠如」という形をとる。
同様に「コミュニケーションにおける質的な障害」も持ち合わせている。
以上の特徴は、「言語能力が十分であっても、それを社会の中で使用することがない」「ごっこ遊びや社会的模倣遊びの障害」「会話でのやりとりにおいて同調したり相互に応答して会話のキャッチボールをすることがない」「言葉で表現するときに表現の柔軟性がない」「思考過程において創造性や想像力がかなり欠ける」「他人からの言語的および非言語的な働きかけに対する情緒的な反応がない」「声の抑揚や強調を変化させてコミュニケーションを味付けすることの障害」および「話し言葉でのコミュニケーションで、強調したり意味を補ったりするための身振り手振りが見られない」という形をとる。

非定型自閉症

上記の小児自閉症のガイドラインのうち、3歳以前までに症状が現れないか、異常な領域の数が小児自閉症より少ない場合を言う。

アスペルガー症候群

言語と知的発達に異常のないことと、 物の一部や機能とは関係のない要素に異常にこだわることが稀であること以外は、小児自閉症に準じる。

他の小児期崩壊性障害

少なくとも「2歳までは正常に発達」した言語・遊び・社会的技能・排尿排便・運動技能などの能力を喪失してしまう病態。小児自閉症で述べた(1)(2)(3)に加え、物や周囲に対する関心を全般的に喪失してしまうという病態のうち、少なくとも2つが認められる。

他の広汎性発達障害

ICD-10で分類される他の特定の広汎性発達障害の下位分類(小児自閉症とかアスペルガー症候群とかなど)の診断基準を満たさない広汎性発達障害。

広汎性発達障害,特定不能のもの

他の広汎性発達障害を含む他のいずれの広汎性発達障害にも該当しないが、広汎性発達障害の全般的特徴には合致するもの。

精神遅滞および常同運動に関連した過動性障害

IQが50以下という中等度以上の精神遅滞があって、不必要に走ったり飛び跳ねたり、症状として特徴づけられる常同的(いつも同じ)活動に没頭しているとき以外は数秒しかじっと座っておられず、することを目まぐるしく変え、いつも同じ奇妙な運動や意味のない活動を繰り返すが、自閉症的な社会機能の障害を認めない、などということによって特徴づけられる病態。ただし「疾病論的な妥当性は確立されていない」とされている。

レット症候群

胎生期や周産期に異常はなく、生下時の頭位も正常で、「生後5ヶ月までは正常の発達」を示すが、生後5ヶ月から30ヶ月までの間に、目的を持った手先の運動で「できていたもの」が「できなくなる」と同時に、コミュニケーションや社会的相互関係の能力に障害が現れ、言語や精神運動の重篤な障害を伴い、揉み手のような常同的な手の運動が認められる病態。女児に特有の障害で、一卵性双生児では完全な一致(片方の兄弟姉妹がレット症候群である時もう一方がレット症候群である確立が100%であること)が認められる。(注:現在では、「遺伝子異常による疾患」であることが確立されている)

 

DSM-5による自閉症スペクトラム障害の診断基準

続いて、広汎性発達障害に相当するDSM-5による「自閉症スペクトラム障害」の診断基準について、分かりやすいように多少表現を変えて紹介します。

A.複数の社会的状況において生じる「コミュニケーション」および「対人的相互反応」という領域における障害であり、以下に示す1.2.3.に示した特性を持つ。

1. 対人的・情緒的な相互関係の欠落。
・その範囲は、「普通ではない(通常は発生しない)人への近づき方や普通の会話のやりとりができないこと」から、「興味・情緒・感情・反応を他者と分かち合うことが少ない」あるいは「対人的な相互交流を開始したり応じることが全くない」程度にまで及ぶ。

2. 他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの欠落。
・その範囲は、「まとまりのない言語的もしくは表情や身振り手振りなどのまとまりのない非言語的コミュニケーションの仕方」から「視線を合わせることや身振り手振りの異常」あるいは「非言語的コミュニケーションの理解や使用の欠陥」さらには「非言語的コミュニケーションの完全な欠落」にまで及ぶ。

3. 年齢相応の対人関係を発達させ維持し、それを理解することの欠陥。
・その範囲は、「様々な社会的状況に見合うように行動することが難しい」ことから、「ごっこ遊びを共に一緒に行ったりや友人をつくることが難しいこと」や「仲間への興味関心を示さない」程度にまで及ぶ。

B.いつも決まって何度も繰り返される限定された行動・興味・活動の様式で、以下の少なくとも2つによって示される。

1. いつも決まって同じように(常同的)何度も繰り返される(反復的)体の運動や動作、物の使用、あるいは話し方。
・例えば単純な常同運動(オモチャを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な運動など)、反響言語(「食べる?」と言ったことに普通は「食べる!食べる!」とか「いらない!」と言うところを「食べる?」と全く同じ言葉と同じイントネーションで返答するなど)、物の反復的な使用、あるいはその人独自の言いまわしなど。

2. 同一であることへのこだわり、習慣への融通の効かない執着、あるいは言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
・例えば儀式的動作や儀式のようなあいさつ、毎日同じ道順をたどることや同じ食べ物への要求、反復的な質問、あるいは小さな変化に対する極度の苦痛、柔軟性のない思考パターンなど。

3. 集中する程度や焦点づける程度が異常に強く、その内容が限定されているか、興味がある対象が固定されている。
・例えば、普通ではない物への強い執着や没頭、極めて限ぎられているか固執的である興味など。

4. 感覚刺激に対する過敏さ、あるいは鈍感さ、もしくは感覚を刺激する環境に対して普通以上に興味を持つこと。
・たとえば痛み・熱さ・冷たさなどに対する明確な無反応さ、特定の音や感触に対する拒絶反応、過度に物の匂いを嗅いだり触ったりすること、光や回転する物体などに我を忘れたかのように没頭し熱中するなど。

C.症状は児童期早期に存在しなければならないが、周囲からの社会的要求が能力の限界を超えないうちは、完全に明確にはならないかもしれない。

D.症状は日常生活や社会、職業、その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。

E.これらの障害は、知的能力障害あるいは全般的発達遅延ではうまく説明できない。

 

「DSM-Ⅳ-TRやICD-10」と「DSM-5」の変更点

大まかな「DSM-Ⅳ-TRやICD-10」と「DSM-5」の変更点については以下のようになっています。

1. 広汎性発達障害の下位分類の殆どが、自閉症スペクトラム障害という大カテゴリーに含まれた。
2. 障害内容の3領域が2領域になった(対人関係の障害とコミュニケーションの障害がA.項目として1つにまとめられた)。
3. 反復常同の領域に「感覚過敏あるいは鈍感」という領域が追加された。
4. 重症度をLevel 1(サポートが必要)、Level 2(多くのサポートが必要)、Level 3(非常に多くのサ ポートが必要)の3段階で判定し、記載が必要とされるようになった。
5. 自閉症スペクトラム障害と注意欠如多動性障害(ADHD) の合併が認められるようになった。

広汎性発達障害を疑わせる徴候にはどのようなものがあるのか?

広汎性発達障害の中核をなす自閉症の子どもに観察された早期の徴候について列挙しますので、早期発見の参考にしてください。なお、このデータは、「厚生労働省:発達神経学的にみた自閉症の予防と治療に関する研究 昭和58年度研究総括報告書 自閉症児の早期徴候と折れ線型経過に関する研究(福島県立医科大学神経精神科 星野仁彦)」より引用しています。表記に不適切な差別用語が含まれていますが、学術的研究報告であるため表現を変えずに引用しています。

1. 話しかけても視線が合わなかった
2. バイバイなどの動作のマネが少なかった
3. 周囲の人に関心を示さなかった
4. 名前を呼んでもふり向かず知らんふりをしていた
5. ひとみしりをしなかった
6. ひとりで置かれても平気であった
7. あまり手がかからず、おとなしかった
(以上、頻度60%以上[筆者注])
8. あまり表情の変化がなかった
9. 親が目を離すと家をとび出した
(以上、頻度50%以上[筆者注])
10. 食べ物の味に敏感であった
11. かしこそうな顔つきをしていた
12. 親のあと追いをしなかった
13. イナイイナイバアに関心を示さなかった
14. 犬や猫などの動物に関心がなかった
15. 抱きぐせがつかなかった
(以上、頻度40%以上[筆者注])
16. 一度覚えたことばを言わなくなった
17. 話しかけても反応がないのでつんぼとまちがえた
18. 睡眠が非常に不規則であった
19. 母親の目をみつめてほほえむことがなかった
(以上、頻度30%以上[筆者注])
20. それまでしていた動作の真似をしなくなった
21. あやしてもほほえむことがなかった
22. 一般に睡眠時間が短かった
23. 一人でいても母親を目で追ったり探そうとはしなかった
24. 抱いても体にしっくり来なかった(抱きにくかった)
(以上、頻度20%以上[筆者注])
25. 痛みに鈍感であり、痛くても泣かなかった
26. ニヤニヤと笑うのみで心が通じない感じがした
(以上、頻度10%以上[筆者注])
27. それまでしていた指さしをしなくなった

広汎性発達障害:原因は?遺伝する?

広汎性発達障害の原因は何か?

広汎性発達障害の原因は分かっていません。

しかし、多くの研究者は、広汎性発達障害には遺伝が関与していると考えています。広汎性発達障害の原因となるような特定の遺伝子は見つかっていないのですが、米国国立衛生研究所の関連サイトによれば、1000を超える遺伝子が自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)に関与するとしています。

多くの遺伝子異常(変異)の組み合わせが、種々の環境要因(親の年齢や出産時合併症など)と相互に作用して、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)の発現に関与するのではないかというのです。また、非遺伝的要因の関与は、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)発症リスクの約40%に影響を与えていると推計されていますが、明確な要因は分かっていません。

ところで近年の研究では、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)の人の脳では、神経細胞から他の神経細胞に情報を伝える継ぎ目(シナプス)の数が、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)ではない子どもに比べて多くなっていることが分かりました。

通常は、乳幼児期にシナプスの形成が爆発的に増えて、思春期後期までに不要なシナプスが「刈り込み」されて半分くらいまでに少なくなることが分かっています。ところが、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)の子どもでは、この刈り込みが障害されて不要なシナプスが16%程度くらいしか減少しないことが明らかとなりました。

不用なシナプスの残存は、情報伝達の非効率化を招くことにもなるのでしょう。これに加え、劣化したり損傷した部位も多く存在し、神経の情報伝達に障害のあることが推測できるような所見も認められたようです。

さらに、マウスでの実験では、自閉症症状が出現した後でも、刈り込みを改善する薬剤を投与すると自閉症症状が改善することが観察され、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)におけるシナプスの刈り込み不全は、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)の病能を説明する有力なメカニズムであると同時に、治療薬の開発につながる仮説かもしれません。

また、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)では脳の白質代謝率が増加しており、通常に機能しない部位の脳機能を、他の部位が代わって行なっている可能性があるとする報告もあり、脳機能の代償機能が有効に作用するよう導くことができるのであれば、得られていない機能を獲得することができるようになるかもしれませんね。

汎性発達障害は遺伝するのか?

現在、最も信頼できると考えられているThe California Twins Study(CATS)によれば、一卵性双生児の片方が自閉症である場合、もう一方が自閉症となる確率は70%であり、二卵性双生児の場合のそれは35%であるとしています。そして、この確率は、年長の同胞(兄弟姉妹)が自閉症であった場合に、のちに生まれた同胞が自閉症となる確率である3〜14%に比べて大きいものであるけれども、遺伝だけで自閉症の発現を説明するには小さな値であるとしています。

つまり、自閉症の発症には、遺伝だけでは説明できない環境要因が関与しているということでしょう。現在では、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)の発症に関して、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)への「なりやすさ」は遺伝するけれど、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)そのものが遺伝するものではないとの考え方が主流となっているようです。

なお、ICD-10やDSM-Ⅳ-TRで広汎性発達障害に分類されていたレット症候群は、MECP2という遺伝子に高頻度に異常があることが分かっており、さらに MECP2に異常がないケースではCDKL5やFOXG1という遺伝子が関係するとの報告もあって、遺伝子異常との関連が明確であるため、DSM-5では自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)から除外されています。

広汎性発達障害の治療について

広汎性発達障害の治療は、本人および家族、教育機関、行政、医療機関などがタイアップした療育という枠組みで行われます。具体的治療法には、下記のようなものがあります。

薬物療法以外のもの

応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)
:派生してきた種々の治療技法があり、不適応的あるいは不適切な特性を改善して社会適応性を高めるものです。ペアレントトレーニングもABAの理論を活用した治療で、日本では、肥前式・精研式・奈良方式・鳥取大学方式・佛教大学方式などの日本に適合させた方法で行われています。

TEACCH
:TEACCHとは、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Childrenの頭文字からの造語で、子ども・家族・学校・行政を統合した生涯的な支援のプログラムです。子どもの不適応的な特性を誘発しないようにする環境などの調整(構造化)なども行います。
PECS(Picture Exchange Communication System)
:絵カードを利用してコミュニケーションを自発的に行えるようになるための方法で、会話の訓練なども行います。
SST(Social Skills Training)
:ロールプレイ(特定の場面を設定し、そこで指定された役割を演じる会話をつくり出していく)を行なって状況への対応や会話の仕方を学ぶものです。
感覚統合(Sensory Integration)
:バランス感覚や動きや姿勢、触覚など色々な感覚をターゲットに設定して、不適応的な感覚特性を改善するものです。
聴覚介入(Auditory Intervention)
:音への過敏性を和らげて、聴覚過敏から生じる不適応的行動を改善するものです。
視機能訓練(Vision Training)
:過剰な目の動きや目で追うことの難しさなどへの対処を訓練し、視覚過敏性に対して特殊なメガネ(Irlen Lenses)の使用を含む訓練なども含まれます。
関係発展介入(RDI:Relationship Development Intervention)
:広汎性発達障害をもつ子どもとの関係を、より良いものにする方法を学びます。

広汎性発達障害の治療技法には、以上に示した技法など様々のものがあるようです。以上で述べたもの以外でソーシャルストーリーなどもこれらの技法の一つです。施行できる治療法は、各医療機関や対応する機関により異なるため、対応してもらっている各機関に確認相談する必要があります。

薬物療法

広汎性発達障害を根本的に治療するような薬は、現在のところ発売されていません。しかし、オキシトシンというホルモンの点鼻が、自閉症スペクトラム障害(≒広汎性発達障害)に効果があるとの報告や、神経の刈り込みを促進する作用のあるラパマイシン(rapamycin)がマウスを用いた実験では効果が認められているとの研究報告がなされており、近い将来、広汎性発達障害の治療薬が販売されるかも知れません。

ところで、広汎性発達障害の方は、生きにくさから生じるストレスにより二次障害といって、不安、気分の落ち込み、強迫症状、対人恐怖、引きこもりなどの症状を併発することも多く、うつ病などの病的状態にまで至ることもあります。そういった二次障害に対して、抗うつ薬や抗精神病薬、抗不安薬、抗てんかん薬、睡眠導入剤などが使われることがあります。子どもの生活の質の改善と社会適応を高めるために、服薬の必要性を含めて主治医とよく相談するといいでしょう。

どこで相談するといいか?

内閣府による障害者施策の相談窓口に関するサイトによれば、下記のような相談窓口が利用できるようです。

発達障害について相談したい ときは発達障害者支援センター。

障害のある子どもに関する相談がしたい ときは、児童相談所・保健所・各市町村の児童家庭相談窓口。

障害のある子どもの教育について相談したいときは、教育委員会(高校については都道府県の教育委員会・幼稚園と小中学校については市町村の教育委員会)・特別支援教育センター等。

おわりに

今回は広汎性発達障害の分類や診断基準、早期の徴候、原因、治療などについて解説しました。ここで解説した内容も少々分かりにくいものであったかも知れません。分かりにくさの原因は、医学の進歩により、1つにくくるべき病態がより明確となってきたことにより、分類と診断のガイドラインが変化したにも関わらず、旧式な分類と診断ガイドラインも並存して使用されていることにあると言っていいのではないでしょうか。

最新の基準では、明らかに遺伝疾患であるレット症候群が広汎性発達障害の関連領域から除外され、元々、独立した病態としては疑問視されたいたアスペルガー症候群や小児崩壊性障害などが自閉症スペクトラム障害に包含されたり除外されています。

したがって、DSM-5 という最新の分類と診断のガイドラインを前提として乱暴に言ってしまえば、広汎性発達障害≒自閉症スペクトラム障害と考えていいのではないでしょうか。実際、広汎性発達障害の療育については、自閉症スペクトラム障害に準じています。

そして、その子その子に合わせて、適切な療育をオーダーメイド的に構成することが望まれているのです。ここで解説した内容も参考にして、それぞれの子どもに適した療育を受けられるように、専門医(主治医)や支援関係者とよく相談してみてください。