最近では政府広報の動きもあり認知度の高まった「ADHD」という言葉。

教育に携わる人間にとって知らぬ存ぜぬではもはやすまない問題となっています。

今回はそんな「ADHD」について赤坂心療クリニック院長米澤利幸先生に記事を書いてもらいました。

はじめに

ADHD(注意欠如・多動性障害)は発達障害の1つですが、症状は誰にでもあるようなものであるため、気づかれないままに大人になってしまうことも多いものです。

ADHDの子どもは、約束を忘れる・好きなことには寝食を忘れて熱中するのに面倒なことは先延ばししてやらない・何かしているかと思うと次の瞬間には別のことをしていて1つのことをやり終えられない等など、大人の目からすると気まぐれで、根気がない、がさつな子どもに見えてしまうのです。

学校の先生から見ても、落ち着きがなく集中力に欠けると写るかも知れません。知恵が遅れている訳ではないのに成績もふるわないし、何かほかの子どもと違うと感じている親御さんも多いかもしれません。友だちとも何となく上手くやっていけないことが多いようです。

しかし、その状態を治療が必要な状態であるとまでは発想できないかもしれません。

そして、何がどうおかしいのかとか、他の子どもとどう違うのかとか尋ねられても、はっきりと答えられないことも多いのではないでしょうか。親から見れば性格の問題であると思えてしまったり、家族以外の人から見ればしつけの問題であると見なされがちです。

ここでは、この分かりにくいADHDについて、ADHDという呼称の歴史的変遷、ADHDの症状とはどのようなものか?

ADHDの原因はなにか?早期からADHDを疑える徴候にはどのようなものがあるか?ADHDの治療とはどのようなものか?などについて、分かりやすく解説します。

ADHDとはどのようなものか?

診断名と訳語の変遷について

ADHDとは、米国精神医学協会の最も新しい診断分類(DSM)であるDSM-5では、Attention-Deficit/Hyperactivity Disorderと表記され、日本では注意欠如・多動症もしくは注意欠如・多動性障害と訳されているものです。この病態がはじめて報告されたのは、1902年に道徳的抑制の病的欠如として英国の小児科医により紹介されたのが最初であると言われています。

その後、微細脳機能障害、小児期多動性障害などという疾患名を経て、1980年に発表されたDSM-ⅢにAttention Deficit Disorderという診断名が採用され、日本では注意欠陥障害と訳されました。注意欠「如」ではなく注意欠「陥」と訳されていたのです。

ちょっと細かいことですが、その後、DSMでは小さな表記の変更があり、日本ではそれに従って、注意欠陥多動性障害→注意欠陥/多動性障害→注意欠如/多動性障害→注意欠如・多動性障害と訳されています。個人的には注意欠如・多動症と呼称するのを好みますが、ここでは単にADHDと表記すことにします。

ADHDの概略

ADHDとは、不注意(注意散漫であたったり集中できない)・多動(黙ってじっとしていられない)・衝動性(衝動を抑制しにくい)を特徴とする発達障害です。ADHDには、3つのタイプがあります。1つ目は不注意と多動がともにあるもので混合型といわれるものです。

2つ目は不注意だけが目立ち、不注意優勢型と呼ばれています。3つ目は、多動と衝動性に障害が目立つ多動衝動型です。もっとも多いのは混合型です。これらの状態が、少なくとも2つ以上の生活状況で認められる必要があります。2つ以上の状況とは、家庭・学校・遊びの場・他のコミュニティ(習い事や地域のクラブ等)などです。

ADHDは多くの場合、小学生になってから診断されることが多いようです。

厳密な診断基準では、12歳までにはADHDの徴候が明確になっていることが必要です。しかし、近年の調査から、子どもの頃にはADHDとまでは診断できないけれども、大人になってからはじめてADHDと診断できる症状が認められるようになる人がかなりの割合でいることが報告されています。

日本での有病率は正確には分かってはいませんが、厚生労働省の関連サイトでは学童期の3-7%であるとしています。また、世界保健機関(WHO)が行った国籍別の疫学調査では、北米・南米・欧州・中東諸国などの国別で、1.2~7.3%の有病率であり、全体では3.4%でした。

明確な原因は分かっていませんが、遺伝が関与すると考えられています。また、問題を解決したり、段取りを上手くつけたり、他人の気持ちを推しはかったり、あるいは衝動をコントロールしたりする脳の領域に機能不全が生じていると考えられています。

原因は確定されていないものの、現在では、ADHDに効果のある薬も開発され、また、教育現場での認知度も高まって、医療と教育の両面からサポートできるようになっています。これを療育と呼びますが、療育は早期からはじめると効果が高く、子どもの特性に応じたオーダーメイド的な支援が望まれます。

ADHDの症状はどのようなものか?

ADHDの主たる症状は、不注意・多動性・衝動性の3領域に分けられ、最新の診断基準を提供しているDSM-5では以下のようになっています。分かりやすいように多少表現を変えているため、正確な表現を知りたい方は、成書を参照してください。

DSM-5におけるADHDの診断基準

A.以下の(1)または(2)あるいはその両方が満たされる必要がある。

(1)不注意
:以下のうち6つ以上(17歳以上の場合は5つ以上)が少なくとも6ヵ月持続し、その程度は年齢から期待される発達のレベルから不相応に低く、学業や職業など社会的活動に直接、悪影響をおよぼすほどの程度である。
(a)学校や仕事または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができないとか不注意なミスをする。
(細かなところを見誤ったり見逃してしまう・作業が不正確であるなど)

(b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である。
(授業・会話・長時間の読書に集中し続けることが困難であるなど)

(c)直接話しかけられているのに、しばしば聞いていないように見える。

(d)しばしば指示に従えず、勉強・用事・職場での義務をやり遂げることができない。
(課題に取りかかっても直ぐに集中できなくなるとか容易に脱線するなど)

(e)課題や活動を順序立てて行うことがしばしば困難である。
(ひとまとまりになっている課題や作業をし終えることが難しい・資料や持ち物を整理しておくことが難しい・作業が乱雑でまとまりがない・時間の管理が苦手・提出物の締め切りを守れないなど)

(f)持続的に集中して努力しないといけない課題に従事することを、しばしば避けるか嫌うかまたは嫌々行う。
(勉強・宿題・報告書の作成・書類に漏れなく記入すること・長い文章を見直すことなど)

(g)課題や活動に必要なものをしばしばなくしてしまう。
(学校の教材・鉛筆・本・道具・財布・鍵・書類・メガネ・携帯電話など)

(h)しばしば外からの刺激によって直ぐに気が散ってしまう。
(青年期後期および成人では無関係な考えが浮かんで、それを考えてしまい注意がそれることを含む)

(i)しばしば日々の活動で忘れっぽい。
(用事を済ますこと・お使いをすること・青年期後期および成人では電話を折り返しかけることやお金の支払いあるいは会合の約束をまもることなど)

(2)多動性と衝動性
:以下のうち6つ以上(17歳以上の場合は5つ以上)が少なくとも6ヵ月持続し、その程度は年齢から期待される発達のレベルから不相応に低く、学業や職業など社会的活動に直接、悪影響をおよぼすほどの程度である。
(a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたり、あるいは椅子に座っていてモジモジする。

(b)着席していることが求められる状況で、しばしば席を離れる。

(c)不適切な状況で、しばしば走り回ったり高いところへ登ったりする。
(青年または成人では、落ち着かない感じがするだけの場合もある)

(d)静かに遊んだり余暇活動をすることがしばしばできない。

(e)しばしばじっとしていない、あるいはまるでエンジンで動かされているように行動する。
(レストランや会議で長時間じっと止まることができないか、不快に感じる)

(f)しばしば喋り過ぎる。

(g)しばしば質問が終わる前に出し抜けに答え始める。
(他人が言おうとしている話の続きを言ってしまう・会話で自分の順番を待てない)

(h)しばしば自分の順番を待つのが困難である。
(列に並んでいる状況など)

(i)しばしば他人のしていることを妨害し邪魔する。
(会話やゲームまたは活動などに干渉する・相手に聞かずあるいは許可を得ずに他人の物を使い始める・青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり横取りするなど)

B.(1)の不注意または(2)の多動性と衝動性の特徴のうち、いくつかは12歳になる前にすでに認められていること。

C.(1)の不注意または(2)の多動性と衝動性のうちいくつかは2つ以上の状況(家庭・学校・職場・他のコミュニティーなど)で認められる。

D.(1)の不注意または(2)の多動性と衝動性の症状により、社会的あるいは学業的または職業的な領域で明らかに機能的障害を来していること。

E.以上の状態が、他の精神疾患によるものではないこと。

 

ADHDの具体的徴候

上記のDSM-5におけるADHDの診断基準では、症状を少しイメージしにくいかも知れません。そこで、ADHDでよく見られる徴候について列挙してみます。

■乳児期
・寝ない
・なだめにくい
・あやしても喜ばない
・微笑みかけても喜ばばない
・ぐずって泣くことがかなり目立つ
■幼児期
・物をよく壊す
・熱中し過ぎる
・はしゃぎ過ぎる
・かんしゃくが激しい
・反抗的行動を繰り返す
・関心の対象が移りやすい
・指示に従わないことが目立つ
・集団生活で他の子どもに乱暴する
・ファミレスなどでじっとしていない
・幼稚園などの集団生活でよくケガをする
・他の子どもが遊んでいるものをよく取り上げてしまう
■学童期
・先生の話を聞けない
・じっと着席していられない
・課題をやり終えることができない
・友だちを作ることができず孤立する
・周囲の大人と対立して反抗的挑戦的な態度をとることが続く
■青年期
・成績が悪い
・信頼できない
・親と不仲である
・約束を守らない
・自尊感情が低い
・責任感がないように見える
・自分のすることが他人にどう影響するかに気づかず仲間を失う
■成人期
・短気
・転職が頻繁
・忘れ物が多い
・記憶力が悪い
・時間感覚がない
・衝動買いが目立つ
・お金の管理が下手
・交通事故を繰り返す
・傾聴することができない
・段取り良く行動できない
・過剰な借金を抱えている
・交通違反や規則違反が多い
・反社会的行動で拘留される
・計画性がなく整理ができない
・注意が散漫で落ち着きがない
・欲求不満ばかりで不機嫌である
・日常的な仕事を終えることが難しい
・ミスが多く仕事で失敗することが目立つ
・友人関係を良好に維持することができない
・計画しても実行できないかやり終えられない
・怒ったときにはふさわしくない汚い言葉を口走ることがある

以上のようなことは、誰にでもあるようなことかもしれません。しかし、このような徴候が他の平均的な人に比べて著しく目立つときは、ADHDである可能性があります。

以上で述べた症状や徴候について、一般的には年齢とともに多動性は目立たなくなるものです。その一方、不注意症状は大人になっても持続していることが多く、衝動性の改善は個人差が大きいようです。さらに、症状の結果として影響を受ける機能レベルの問題があります。徴候の中にも一部含めていますが、転職が多いとか、学業成績や仕事のできなどの問題等、治療せずに放置すると本来の能力を発揮できないことになってしまう可能性があることに、注意しなければなりません。

ADHDの原因はなにか?

ADHDのリスク要因

ADHDの原因は明確には分かっていません。しかし、ADHDと関連する要因がいくつか明らかになって来ています。遺伝が影響する可能性や環境の影響を受ける可能性が報告されているのです。遺伝要因として、ADHDである子どもの一卵性双生児のもう一方や親兄弟がADHDである確率は、ADHDの子どもがいない家系でのADHD発現率より高いことが報告されています。環境的な要素としては、出生時体重1500g未満であることや妊婦が飲酒したり喫煙したりしていたことなどです。さらに、妊娠中に妊婦が過体重や肥満があるとADHDの子どもが生まれるリスクが高まるとの報告もあります。また、若年での鉛などの環境毒素への暴露や脳外傷もADHDの発症に関連があるかも知れないとされていますが、確証されてはいません。

その他、銅・葉酸・亜鉛・鉄・オメガ脂肪酸の欠乏、水銀・マンガン・安息香酸ナトリウムや食物色素などの食品添加物・有機塩素・有機リン酸塩・リン酸塩・ポリフルオロアルキル化合物への暴露、妊婦の抗うつ薬や降圧薬の使用、妊婦のカフェイン摂取、妊娠中のストレス、乳幼児のテレビゲームなど電子媒体への暴露、乳幼児の精神的愛情剥奪、トラウマ体験などがADHDの発現に関係があるとの報告があるものの、現状では有力視はされていません。

有力な仮説 Triple pathway modelとは?

ADHDの子どもが生まれるリスクが高まる可能性のある要因があるとして、ADHDである子どもの症状は脳科学的に説明できるのでしょうか?ADHDの子どもの脳で、どのような不都合が生じているかは正確には分かっていません。しかし近年、注目されている仮説があります。それは英国サウサンプトン大学のE.Sonuga-Barke らが提唱したTriple pathway model(正式な日本語訳は定められていないようですが三重経路モデルとでも訳せるかもしれません)というものです。E.Sonuga-Barke らは多変量解析(因子分析)を使った分析により、ADHDでは時間処理障害と遅延報酬障害、実行機能障害の3つの脳機能障害があるとしています。

まず「時間処理障害」ですが、時間を等間隔に刻むことの障害であると解釈される機能障害です。また、生じてくる出来事や状況に応じて時間的に優先順位をつけ段取りよく処理したり、生じたことから結果を予測することなどに関する障害とも推察されています。これは小脳が主に関与するとされ、ノルアドレナリンという神経伝達物質が関係するようです。この機能の障害は、課題や活動を順序立てて行うことができないというADHDの不注意症状の1つをよく説明できるものと言えるかも知れません。

次の「遅延報酬障害」というのは、今したいことを今しないで我慢すれば、その後にそれ以上の良いことがあるので我慢するなどということを判断する脳機能の障害です。線条体・側坐核・眼窩前頭野などの報酬系や視床などの脳部位の機能であるとされています。伝達物質としては、主にドーパミンが関係します。この機能に障害があると、したいことを直ぐにしないと我慢できないということになり、当にADHDの子どもの衝動性を説明できる機能障害と言えるでしょう。

最後の「実行機能障害」については、課題処理を行い目標を達成するために、状況を適切に捉えて論理的に考え、まとめ、計画をたて、順序立てて行動をすることに関する機能の障害です。実行機能が障害されると、持っている知識や経験を元にして判断し行動することができないという状態となります。言い替えると、知識や経験を活かして段取りよく課題を遂行できないという状態になるということです。これは主に前頭前野の機能であり、ノルアドレナリンとドーパミンが関係しています。

ADHDの治療

ADHDの治療の基本は、教育と医療および家庭での支援を総合した、薬物療法以外の治療(療育)が主役になります。そして、ADHDの治療方針の原則は、ADHDの主症状が完全になくなることが目標ではなく、症状の改善によって学校や家庭、社会生活における不適応的状態を和らげて、症状を子どもの人格個性として、自ら受容して折り合えるようになり、自己価値観を保てるようにすることであると言っていいでしょう。そのために、小児期には自尊感情を低下させないように、個性に合わせた環境調整を行い、周囲によき理解者支援者をえるように療育が行われる必要があります。なお、薬物療法は、療育の目的を達成しやすいように補助的に行われれることが多いのです。

ADHDの薬物療法

ADHDの子どもの治療において、薬物療法は必須のものではないと言われています。薬には必ず副作用があり、子どもにはできる限り薬は飲ませたくないというのが親心でしょう。薬を使わないで子どもの症状を改善できるのに越したことはありません。簡単な支援により改善が見られない場合、どこまでそれ以上の手厚い支援が個々の子どもに提供できるかは、通学している学校や地域の取り組みにかかってきます。しかし、療育の現場では、十分な支援を提供できるマンパワーが不足しているというのが現実かもしれません。やはり薬は、子どもの将来への可能性を広げる大きな手段となると思われます。

薬は使うべきか?

ADHDの子どもの治療に関する大規模な調査にMTA研究(The Multimodal Treatment Study of Children with ADHD)というものがあります。これによれば、薬物療法を行った場合(「薬物療法のみ」もしくは「薬物療法と行動療法的介入)は、行わなかった場合(行動療法的介入もしくは通常のコミュニティでの対応のみ)よりも、14ヶ月後の改善が大きかったとの結果が出ています。また、同じ調査で8年後を比較すると、治療手段による改善効果に差がなくなっており、どの治療手段であっても治療効果は少なくなっているという結果でした。そして、治療前の状態よりは症状の改善は得られていたものの、ADHDではない子どもに比べて機能レベルは低かったとしています。

また、他の複数の研究結果から、薬物療法は「学業成績や宿題をすることに関する行動」に改善をもたらし、「作業を行い続けられる時間」や「することのできた宿題の量」を増やすということが分かっています。さらに、同じADHDの子どもに薬物療法を行うと、薬を使わなかった時期よりも「数学の点数」や「読書の評価点数」が高くなったとの結果も得られているのです。さらに、神経刺激薬の使用が、薬剤への依存を助長する証拠はないとも報告されています。しかし、大人に至るまでの依存性薬剤の使用についての影響は分かっていません。

これらの結果を解釈するなら、(1)1年少しの短期的には薬を使う方が改善がえられる(2)長期的には薬を使う必要性がなくなる(3)薬剤への依存は注意しなければならない等と言えるかもしれません。治療早期の症状の改善は、ADHDである子どもの自己評価の低下を少なくする可能性もあり、薬物療法はADHDの子どもの治療の有用な選択肢であり、薬を使用する価値は十分にあると言えそうです。ただし、薬への依存の問題や成長への悪影響などを十分に主治医と相談して、薬物療法を行うか否かを決める必要があります。なお、薬、特に神経刺激薬の副作用としては、年齢にみあう体重増加の抑制・睡眠障害・チック・不安やイライラの亢進・胃痛・頭痛などがあります。

ところで、現在(2017年12月時点)、日本では、コンサータ・ストラテラ・インチュニブという作用機序の異なる3つの治療薬が使用できます。ただし、インチュニブは18歳未満の人にしか使えず、また、3剤とも6歳未満の幼児における有効性及び安全性は確立していないとして使用はできないので注意が必要です。

いつまで薬を続けるのか?

子どもがADHDである場合に、いつまで服薬するのかは明確な判断基準はないと言っていいのが現状です。ADHDの子どもの症状についてBiedermanらは、多動性は9〜11才で、衝動性は11〜14才で診断的には目立たないレベルに落ち着くとする一方で、不注意症状は成人してからも多くは継続するとしています。もし、多動性や衝動性が目立たなくなって不注意が残ったとしても、必ずしも服薬を継続しないといけないとは言えないかも知れません。一つの目安としては、薬の服用をしていて1年以上も症状が認められないとき・服薬(直ぐに効果がなくなる神経刺激薬に限る)を1〜2回忘れても行動が適切なままに維持できているとき・注意を集中するためのスキルを習得しているときには、服薬を中止しても良いと言えるかも知れません。しかし、服薬により症状がどんどん良くなっている状態にあるときには、服薬を中止することは望ましくありません。いずれにしろ主治医とよく相談して薬の服用を中止するか継続するかあるいは減量するかを判断すべきでしょう。

心理社会的治療

現在(2017年12月時点)、ADHDの治療において第一選択とされている心理社会的治療法はありません。しかし、子どもへの行動療法・親へのペアレントトレーニング(Parenting skills training)・子どもへの個人カウンセリング・マインドフルネス技能の習得・社会技能訓練(SST)・教育現場での指導訓練などが治療として行われています。

子どもへの行動療法

学業や宿題を遂行することの助けとなるスキルを向上させる治療であり、苦手で上手くいかない状況での対処を向上させるものです。していいことやしてはいけないことのルールを明確化したり、することのリストを作ったりして、望まれる行動は促進して、望まれない行動は無視する(反応しない)ようにして望まれない行動を減らすようにします。怒りをコントロールできたり、行動する前によく考えることができたときに、賞賛したり実益のある報酬を与えるのです。報酬は必ずしも他人から与えられるものではなく、自分で与える場合もあります。例えば、宿題をしたらゲームを30分してよいと自分で決めて実行するなどです。

親へのペアレントトレーニング(Parenting skills training)

非常に単純化して言うなら、行動療法を自宅で親が行えるように指導訓練するものです。子どもの望まれる行動に報酬を与えて、その行動を強化したり、望まれない行動を無視(怒ったりせず反応しないなど)することによって、その行動を減らす方法を学びます。望まれる行動に報酬を与えることは分かりやすいでしょう。無視ということについては、ちょっと分かりにくいかも知れません。説明は難しいのですが、例えば、親の関心を引いて構ってもらうことを望んでいる子どもにとっては、望まれない行動をすることで(怒られるにしろ)親の関心を引くことに成功するなら、子どもの心理的ニーズが満たされることになるため、子どもの望まれない行動は促進されるという結果になってしまうのです。こういった心理的カラクリがあるので、望まれない行動に無視(反応しない)という態度を適切に取れるよう、親が訓練を受けるのです。

子どもへの個人カウンセリング

幼い子どもに言語的にカウンセリングを行うことは難しいかも知れません。しかし、カウンセラーの受容的で支持的で温かく傾聴する態度は、子どもの自己価値観を高めることは確かなことでしょう。著しく自尊感情が低下している子どもへのカウンセリングは、行う価値があると思われます。

マインドフルネス技能の習得

これは大人でもなかなか習得するのは難しいのですが、自分の気持ちを観察して、自分が今そう感じているとか考えているなどということに気づき、その状態をありのままに受容して、不必要な危険を冒したり衝動的に行動することを防ぎ、物事への集中を保つことに役立つスキルを身につける訓練です。

社会技能訓練(SST)

ロールプレイ(治療者と一緒に実演するなど)により、どのようにして自分の順番を待つであるとか、オモチャや道具を一緒に使うとか、困ったときに助けを求めるであるとか、声の調子や表情から相手の気持ちを推し量るとかなどの社会技能(ソーシャルスキル)を習得してもらう訓練です。

治療しないで放置するとどうなるのか?

ADHDの子どもに療育を行わずに放置した場合、種々の不都合が生じてきます。主なものを列挙してみると、自尊感情の低下・成績の低下・家族間の関係の悪化・進学先の選択肢が減る・就職先の選択肢が減る・人間関係を良好に維持できない・借金をする可能性が高まる・交通事故を起こす可能性が高まる・離婚する可能性が高まる・失業したり職を頻繁に替える可能性が高まるなどの不利益を受けてしまうでしょう。また、気分障害(うつ病など)・不安障害・アルコールやギャンブルあるいは買い物依存などという精神疾患になってしまう可能性が、ADHDではない人より高くなってしまうのです。ですから、これらの精神障害になってしまわないように、より早期からの療育を行うことが望まれます。

おわりに

近年では、ADHDという言葉が一般にも知られるようになり、芸能人でADHDであるとカミングアウトする人も見受けられるようになってきました。『お金は銀行に預けるな』などで知られるベストセラー作家で評論家でもある勝間和代さんも、ブログの中で自分がADHDであることをカミングアウトしています。2013年6月3日のブログに、「2000文字の原稿を書くのに意志の力は殆ど必要ないのに、住所を書いて署名して返信するだけでも、平日にゆっくり休んで気もちに余裕のあるときにしかできない」というようなことを記しています。これが当にADHDの日常を言い現わしているのではないでしょうか。

勝間和代さんのブログで示されたようなこと以外にも、約束や期限を守らない・コロコロ気分が変わって信頼できない・他人の気持ちを汲み取れない・場の空気を読めないなどの一寸した日常的な生活上の障害は、積み重なってしまえば、その人の信頼を失わせ、仲間関係や同僚あるいは先輩上司との関係を良好に維持することに支障が出てくる可能性が大きいものです。

子どもが、その時点での生きやすさや、将来の生活の質(QOL)を高め、人生の可能性を可能な限り高めていくためにも、より早期に専門家の援助を仰ぐことがことが望まれます。