我が国の知能検査には「WISC」が使われることが多いですね。

今回は「WISC」について赤坂心療クリニック院長米澤利幸先生に記事を書いてもらいました。

はじめに

WISCは、日本では最も一般的に行われている子ども用(適用年齢は5歳0ヶ月〜16歳11ヶ月で所要時間が60〜90分)の知能検査です。

正式名称をWechsler Intelligence Scale for Childrenといい、「ウィスク」と呼ばれています。

WISCは、単に知能を測定する指標となるばかりではありません。WISCは、発達障害(自閉症スペクトラム障害や学習障害など)の診断の参考となる評価を提供してくれるうえ、それらの療育(治療と教育等の支援を総合して行うこと)の具体的支援の方策にも参考となる情報を与えてもくれる検査です。発達障害とまでは診断されないけれども、何らかの学習上の困難を持っている子どもの支援を行う上で、有用な情報を提供してくれるのもWISCの特徴でしょう。

ところで知能検査というと、何か我が子の価値を査定されているように感じる人がいるかも知れません。しかし、WISCで測定した総合結果が知能指数(以下IQ[ Intelligence Quotient])ということになるものの、そのIQを構成する下位の能力の判定評価は、測定された子どもの得意な面と不得意な面を明らかにしてくれるのです。

この得意な面と不得意な面を知ることにより、療育の内容にも違いが出ることになります。一般にWISCの具体的検査内容が公開されていないため、一般でも分かりやすい「いわゆるIQ」だけが知能検査の象徴のようにイメージされているのでしょう。

ここでは、WISCについてできる限り理解しやすいように、知能とはどのようなものか? WISCとは何か? WISCを行う意義とは? WISCで何を測定するのか? WISCを何故する必要があるのか? 結果をどのように解釈するのか? WISCの結果をどう活かすか?などについて解説します。

知能とはどのようなものか?

まずはじめに、知能について解説します。知能とは個別の機能を総合的に駆使して、環境やその変化に適応できるようにするための能力であるといっていいでしょう。

そのための、新しいことを学び習得習熟していく能力や抽象的に物事を考えることのできる能力です。

近年の知能研究の主流となっているCattell-Horn-Carroll理論によれば、知能には一般因子と特殊な能力因子というものがあるとされます。

一般因子には、

・広汎な知能因子として結晶性能力[知識](これまでの学習内容を十分に活用した結果である判断力や言語能力・知識に関する知能)

・短期記憶(得た情報を数秒間ほどの短時間保持したり取り出したりすことに関する能力)

・流動性能力[推理](新しい状況に適応するときに必要な能力)・視空間能力(視覚的なパターンなどの知覚・分析・貯蔵・検索・操作・思考に関する能力)

・認知的処理速度(比較的簡単な課題をスピーディーに正しく解く能力)

・聴覚的処理・長期記憶と想起・読み書き・数量的知識・意志決定速度があるとしています。

特殊な能力因子としては、

・演繹的推理

・言語発達

・知覚課題

・視覚化

・メモリースパン

・連想記憶

・音声の符号化

・単純反応時

など70項目があるようです。これらの能力の総合力が知能でしょう。そして、これらの能力のうち、結晶性能力(知識)・短期記憶・流動性能力(推理)・視空間能力・認知的処理速度について測定するのがWISCなのです。

IQとはどのようなものか?

WISCなどの知能検査により測定されるのがIQです。

IQは、精神年齢(ビネーとシモンによる知能検査法によって判定された年齢[DA:developmentalage])を暦年齢(通常使われている生まれてから暦に従って数えた年齢[CA:chronological age])で割った値に100をかけて計算した比率IQなどが田中ビネー知能検査などでは使われます。

しかし、WISCでは偏差IQというものを採用しています。

偏差IQは、「各子どもの知能検査での得点」から「同じ年齢の子ども達の知能検査での平均得点」を引いた値に「15」をかけて、さらにそれを「標準偏差」で割った値に「100」を足して得られる値です。ややこしいので式にして示すと、

「IQ=15×(その子の得点 – 同じ年齢集団の平均得点)÷ 標準偏差 + 100」

となります。その子の得点が例えば60として、同一年齢集団の平均得点が62で標準偏差が10であるなら、15×(60 – 62)÷10+100で計算された値である97がIQの値です。

IQの評価は、ある年齢の子ども達の50%が、その中に入るIQ値の範囲を「平均」と評価します。平均とされるIQ値は、WISC-Ⅳでは90〜109となり、120以上は優れているか非常に優れていると判定され、89以下は低いか非常に低いと判定されます。

しかし、このIQは決して子どもの価値を指し示すものではないことを認識しておくことが大切です

なお、標準偏差とは、「個別の得点から集団の平均値を引いたものを二乗し、それを個別に計算したものをサンプル人数分すべて足し合わせ、その値をサンプル数で割った値の平方根をとる」ことで計算されます。ややこしいので、単純にデータのばらつき具合を表すものと考えてください。

WISCとは?

現在、日本で使われているWISCは第4版となるWISC-Ⅳです。

第3版のWISC-Ⅲでは全検査IQと、その下位検査結果評価として言語性IQと動作性IQに分かれていました。

しかし、WISC-Ⅳでは下位検査結果の評価が、言語理解指標(VCI)・ワーキングメモリー指標(WMI)・知覚推理指標(PRI)・処理速度指標(PDI)の4つに変わっています。

WISC-Ⅲの言語性IQは、言葉を理解し論理的に考えて説明し表現する能力の程度のことで、知識や経験で得られた判断力などの結晶性知能といわれるものの程度を表します。一方、動作性IQとは、図形などを認識してパズルなどを上手く完成させる能力の程度を表すとされ、状況の変化に適応するために必要な流動性知能と関係するものです。

ところが、因子分析などの多変量解析という統計手法を使って分析した結果、言語性IQと動作性IQよりも、言語理解指標(VCI)・ワーキングメモリー指標(WMI)・知覚推理指標(PRI)・処理速度指標(PDI)により評価する方が、子どもの知的能力をより正確に表すことが分かりました。その為、WISC-Ⅳでは、上記の4つの指標が検査されることになったのです。なお、WISC-ⅢでもWISC-Ⅳでも、全検査IQ(略号はWISC-ⅢではFIQ、WISC-ⅣではFSIQ)という総合的な知的能力の程度も測定されます。以下に、WISC-Ⅳの各項目について解説します。

全検査IQ(SFIQ:Full Score Intelligence Quotient)とは?

全検査IQ(FSIQ)とは、全般的な知的発達のレベルを示すもので、同年齢(「10歳00ヶ月+10歳01ヶ月+10歳02ヶ月+10歳03ヶ月」などのように4ヶ月単位での数値が記載された表がある)の子どもの平均に比べてどれくらいの程度であるのかを示すものです。WISC-ⅣはWISC-Ⅲと同様に全検査IQ(FSIQ)は偏差IQで示されます。「FSIQの値・WISC-Ⅳでの分類・全体に占める理論上の割合(%)」の順で表記すると、次のような知的能力の程度に分類されています。「130以上・非常に優れている・2.2」「120〜129・優れている・6.7」「110〜119・平均の上・16.1」「90〜109・平均・50.0」「80〜89・平均の下・16.1」「70〜79・低い(境界域)・6.7」「69以下・非常に低い・2.2」です。これは、FSIQの値が90〜109で「平均」と判定されるものが同一年齢層の子どもの中で50%を占め、80〜120で「平均の下・平均・平均の上」のどれかと判定される子どもが82.2%いるということを意味しています。

言語理解指標(VCI:Verbal Comprehension Index)とは?

語彙(ごい:知っている単語の総体)や言語により習得した知識および言葉によって行われる推理能力などを評価する指標です。テスト項目としては、類似(2つの単語にどのような共通点があるかを説明する)・単語(単語の意味を答える)・理解(財布を拾ったらどうするかなど日常的な問題の解決法や社会的ルールに関して答える)があります。

知覚推理指標(PRI:Perceptual Reasoning Index)とは?

目で見て得た非言語的な情報から、前後関係や全体を推理する能力などを評価する指標です。テスト項目としては、積み木模様(見本で示されている模様を積み木を組み合わせて作る)・絵の概念(飲むものなどというような共通の特徴のある絵を選ぶ)・行列推理(複数の絵から法則性を見つけて選ばせる)があります。

ワ-キングメモリー指標(WMI:Working Memory Index)とは?

聞いて得た情報を一時的に記憶して、物事を処理するときにそれを使用するという記憶の能力です。テスト項目としては、数唱(不規則な順番で言われた数字を同じ順番で復唱したり逆の順序で復唱する)・語音整列(「3-こ-1-か」を「1-3-か-こ」などというように、読み上げられた数字とカナを数字は小さい方から、カナは五十音順に復唱する)があります。

処理速度指標(PSI:Processing Speed Index)とは?

視覚的な情報を素早く理解判断して、能率的で的確に処理する能力です。テスト項目としては、符号(図形や数字と対応する関係にある記号を書き出す)・記号(左の欄にある手本の記号と同じ記号が右の欄にあるかかを判断する)があります。

WISCを行う意義とは?

WISCを何故する必要があるのか?

先に述べたように、WISCでは色々の能力領域の力が、どれくらい平均より得意であるか不得意であるかを測定することができます。いわば子どもの得意な面と不得意な面が数値化して明瞭に示されるのです。この得意と不得意を細かく知ることによって、そのプロフィールに適する支援を行うための参考にできることになります。その子どもが不得意なのはWISC-Ⅳの下位指標である言語理解か?知覚推理か?ワーキングメモリーか?処理速度か?これらを的確に知ることにより、適切な支援を行うことができるのです。これらの指標の間に大きな差があるとき、ディスクレパンシーがあると表現されることがよくあります。

ディスクレパンシー(discrepancy)とは?

WISCの検査結果を解釈するときによく使われるディスクレパンシーという概念ですが、ディスクレパンシーを単純に和訳すると、不一致とか矛盾、あるいは単に差というように訳されます。しかし、乖離(かいり)という訳語の方がふさわしいかも知れません。例をあげて説明すると、全検査IQ(FSIQ)や下位指標の他の指標は高い値を示すけれども、言語理解指標(VCI)だけが低いなど、他の指標から乖離して低い検査結果があるというときに、ディスクレパンシーがあると言います。

ディスクレパンシーの解釈における有意差とは?

WISCの検査セットには、各下位指標間にどれくらいの得点差があれば統計学的に有意の差があるのかを示した表が付属されています。例えば言語理解指標(VCI)とワ-キングメモリー指標(WMI)に「X点」以上の差があれば「15%レベルで有意」に差があると言え、「Y点」以上の差があると「5%レベルで有意」に差があると言えるということが分かるような表が添付されているのです。これは、「X点以上の得点差があれば85%の確率で差があると言ってよい」ということを意味しており、「Y点以上の得点差があれば95%の確率で差があると言ってよい」ということを表しているのだと考えてください。WISCでは15%レベルの有意差があれば、差があるとするようです。

先に述べたように、全検査IQ(FSIQ)やワーキングメモリー指標(WMI)・知覚推理指標(PRI)・処理速度指標(PDI)のいずれに対しても、添付された表に示された有意水準レベルの得点差以上に言語理解指標(VCI)が低い点数であったなら、言語理解指標(VCI)が低いというディスクレパンシーがあるということになります。しかし、言語理解指標(VCI)が他の指標よりも低い点数であったとしても、添付された表に示された有意レベルの得点差よりは実際に測定された得点差が小さいときには、言語理解指標(VCI)が低いと判断することに慎重であらねばなりません。

ディスクレパンシーの解釈における標準出現率とは?

先に述べた有意差とは、平均値と比べて統計学的に意味のある差があるということでした。ところが、上記で説明したX点以上の得点差がありかつ有意に低いと言えたとしても、対象とする年齢の集団に、その得点差が出現する割合が例えば30%ほどもあるのであれば、ほぼ3人に1人が有意に低いということになります。これは有意ではあるけれども、ありふれて認められる差ということになります。つまり、X点以上に低い得点である子どもが3人に1人はいるということは、この得点の低さは稀な低さではないということを意味します。明らかに低いけれども稀ではないということです。WISCの検査セットには、標準出現率の表も付属しています。この表から、標準出現率が10〜15%以下となっているときには、「稀な差」が認められるとするようです。そして、稀な差であるかそうではないかにより、支援の方向性が少し異なってきます。有意な差であって稀ではない差であるなら、得意な能力を強めるような方向性で支援します。しかし、有意な差であって稀な差であるときは、不得意な能力を使わないで済むような方向性で支援するという方針が取られるようです。

WISCの結果をどう活用するか?

WISC-Ⅳで測定押されたIQは、子どもの価値の優劣をつけるものではないことを再度強調したいと思います。WISC-Ⅳの結果は、得意と不得意を明確にして、不得意な能力を伸ばしたり、得意な能力で不得意な能力を補う、あるいは得意な能力を伸ばすために用いるものです。前項で解説したディスクレパンシーにも配慮して、具体的には以下に述べるような支援の工夫に繋げます。

言語理解が不得意な場合の支援の工夫

・絵や図で説明を伝える。
・理解できたか確認する。
・約束は紙に書いて確認する。
・理解できないときは繰り返して伝える。
・集団で指示されると理解しにくいときは1対1で伝える。
・言葉での指示は簡単な言葉で簡潔にユックリとハッキリ伝える。

知覚推理が不得意な場合の支援の工夫

・道具を使って理解を促す。
・言葉を使って根気よく確認する。
・図形などの特徴を言葉で説明する。
・状況を分かりやすい言葉で順序立てて説明する。
・収納する場所に色分けした目印をつけて分かりやすくする。
・下から5つ目であるなどと上下左右などを言語化して伝える。

ワーキングメモリーが不得意な場合の支援の工夫

・メモを活用する。
・説明は簡潔にする。
・絵や図を補助的に用いる。
・暗算でなく筆算で計算する。
・覚えておくことをメモする習慣をつける。
・聞くことを促して集中力を高めるようにしてから伝える。
・ごろ合わせなど覚える事柄を意味付けして覚えやすくする。

処理速度が不得意な場合の支援の工夫

・書き写すことが不得意な子には手本をなるべく近くに置く。
・授業ごとに必要な用具や準備することのチェックリストを作る。
・優先順位を考えておき制限時間内に行うことをあらかじめ決めておく。
・するべきことに取り組む時間を十分に余裕をもって焦らないようにする。
・マス目や方眼ノートにするなど本人が使いやすい筆記用具を使うようにする。
・写すことが難しい場合はなぞるとか書き順を分解した手本に沿って書くようにする。

 

最新版であるWISC-Ⅴについて

WISCは、1949年に初版であるWISC(日本では1953年)が出版されて以来、徐々に改定されてWISC-R(1974年[日本1978年:以下同様])、WISC-Ⅲ(1991年[1998年])、WISC-Ⅳ(2003年[2010年])、そして2014年に第5版であるWISC-Ⅴ(日本未出版)が出版されています。

WISC-Ⅴでは、語の推理と絵の完成という検査項目がなくなり、

・数列数唱(読み上げられた数字を小さい方から大きい方に順番に答える)

・絵の記憶(見せられた絵を多くの絵の中から選ぶ)

・視覚パズル(完成させるのに必要なパズルのピースを選ぶ)

・図形の重さ(いくつかの図形が乗った天秤が釣り合うような図形を選ぶ)という検査が加えられています。

ところで、米国で新たな改訂版が出版されてから、日本語版が出版されるまでに4〜7年かかっています。これは、検査が日本でも米国と同様に信頼できる結果をもたらすかどうかを確認するなどの必要があるため、時間がかかるのです。日本でWISC-Ⅴが使用できるようになるには、2014年から数えて7年以上はかかるかも知れません。日本でWISC-Ⅴが使用できるようになるまでは、引き続きWISC-Ⅳが使われることになります。

おわりに

今回、主にWISC-Ⅳについて解説しました。WISCは市販はされているものの、誰でも購入できるものではありません。購入するにも発売元の日本文化科学社が認定する代理店(心理テストセンターなど)に問い合わせて、購入資格があることを確認されなければ購入することができません。その資格は、発売元の日本文化科学社のサイトより引用すると、以下のようになっています(ちなみにWISC-Ⅳは下記レベルCであることが必要)。

小社発行の心理検査は、心理アセスメントに関する知識と経験を備えた専門家にご利用いただくことができます。実施と解釈に必要な知識と経験は検査によって異なりますので、小社では、求められる使用者のレベルを検査ごとに明らかにし、下記A~Cのレベルでホームページおよびカタログ上に示しております。
レベルA
保健医療・福祉・教育等の専門機関において、心理検査の実施に携わる業務に従事する方。
レベルB
レベルAの基準を満たし、かつ大学院修士課程で心理検査に関する実践実習を履修した方、または心理検査の実施方法や倫理的利用について同等の教育・研修を受けている方。
レベルC
レベルBの基準を満たし、かつ心理学、教育学または関連する分野の博士号、心理検査に係る資格(臨床心理士、特別支援教育士、学校心理士、臨床発達心理士)、医療関連国家資格(医師、言語聴覚士等)のいずれかを有する方、あるいは地方公務員心理職、国家公務員心理職(家庭裁判所調査官等)の職で心理検査の実施に携わる方。
なお、検査のご購入は保健医療・福祉・教育等の専門機関に限られます。各機関におかれましては、この基準をご確認くださり、ご購入時、またその後の管理においても、適正なレベルの専門家以外に検査内容を開示することのないよう、ご留意ください。

購入した後にも、「適正なレベルの専門家以外に検査内容を開示することのないよう、ご留意ください」との注釈があるため、WISCの内容は殆ど知られていないというのが現状です。ここでは、WISC-Ⅳの使用を運用するのに支障がなく著作権を犯さない範囲で、主にWISC-Ⅳについて解説しました。WISC-Ⅳなどの検査を受けた子どもの支援をより向上させるために、今回の解説を参考にしてください。そしてWISCをはじめとする知能検査の結果は、子どもの得意不得意を明確にして、子どもの能力を伸ばすために利用する指標であるということを再認識して、検査結果を子どもの能力開発に有効活用できればいいですね。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長