「学習障害」と言う言葉について皆さまはどのようなイメージをもたれるでしょうか?

「学習障害」と「知的障害」は全然別ものです。

そんな誤解されがちな「学習障害」について赤坂心療クリニック院長である米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

はじめに

学習障害とは、分かりにくい発達障害の中でも、さらに分かりにくい障害でしょう。

知能に障害がないにも関わらず、学習における特定の領域だけに障害があるのが学習障害です

特定の領域とは、「読み・書き・計算」という3つの領域になります。

これらの領域の障害が複数合併することもありますが、1つの領域のみに障害が認めれるときには特に、障害とは見なされず本人の努力不足であると思われてしまうことも多いのです。また、本人にも自分の状態が障害であるとは思わないために、自分は頭の悪い子であるというように自信をなくしたり勉強嫌いになってしまいます。

できないから楽しくない。楽しくないからしなくなる。しなくなるからますます他の子どもとの差が広がってしまうという悪循環が生じてしまいます。本来持っている能力を伸ばしていく機会を、失ってしまうことになるのです。

さらに悪いことに、自分はできの悪いダメな人間であるというように自己評価が低下してしまって、最悪の場合には、うつ病などの精神疾患になってしまうことにもなりかねません。発達障害における二次障害と言われる状態です。

これらの、能力を伸ばせないという問題と二次障害を予防するためには、できるだけ早期に発見して適切な療育(治療と教育・サポートを総合した支援)を行う必要があります。

しかし、困ったことに、日本では学習障害に対応できる専門家が少ないのが現実です。それでも、この分かりにくい学習障害により早い時期に気づいて、より早期から療育を行うことが必要でしょう。

ここでは、この分かりにくい学習障害について、学習障害とは何か?どのような種類があるのか?早期に発見するためにはどのような点に気をつければいいのか?どのように対処すればいいのか?などについて解説します。また、家庭でもできそうな対処策を紹介します。

学習障害とは何か?どのような種類があるか?

文部科学省によれば、『学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。』となっています。

読み書き計算以外に聞く話すという領域も文部科学省の定義には含まれているのです。

一方、世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第10改訂版(ICD10)では、学習障害を特異的読字障害・特異的綴字障害・特異的算数能力障害・学力の混合性障害・他の学力の発達障害と分類し、米国精神医学会の分類(DSM5)では、学習障害を限局性学習症と一括したうえで、読字の障害をともなう(もの)・書字表出の障害を伴う(もの)・算数の障害をともなう(もの)に分類しています。

このように分類だけ列挙しても、学習障害とはどのような障害であるのかは、分かりにくいものです。要は、知能障害や目耳などの感覚器の障害がないにも関わらず、「読み・書き・計算に障害がある状態」だと簡単に理解しておくのがいいでしょう。具体的な徴候については、次項で説明します。具体的な徴候をみれば、学習障害の状態をイメージしやすいかも知れません。

早期発見するにはどのような点に気をつければいか?

学習障害は、できるだけ早く発見して療育という支援を行う必要があります。

では、どれくらいの時期から学習障害の徴候が見られるのでしょうか?

普通は、3歳半から4歳頃には文字に興味を示し始めるようです。ところが、読み聞かせることや絵(絵本)には興味を示すけれども、字の多く書かれた本や文字には興味を示さないように思えるときには、学習障害(読み書きの障害)の有無について気をつけるようにするといいでしょう。

しかし、学習障害の存在が明確になるのは、本格的な学習がはじまる小学生になってからということになります。ただ、小学校低学年の場合、授業で学ぶ内容が単純であるため、子どもが努力すれば学習障害が目立たず、親にも学校の先生にも分からないことも多いようです。

これが小学校高学年にもなると学ぶ内容が複雑になってくるため、子どもの努力だけでは学習障害の状態を補えないようになってきます。小学校高学年や中学生となり、英語の授業が始まれば、学習障害の子どもは益々ついていけなくなります。

英語は日本語に比べて、発音(音韻)が複雑で不規則な表記が多く、表記と発音の開きが大きいため、視覚的聴覚的な情報処理が複雑だからです。さらに高校、専門学校や大学と進んで学習内容がさらに複雑となってくるに従い、学習障害が勉学に大きな支障となってきます。

ただし、学習障害で苦手となっている領域以外の能力が秀でている場合は、生涯学習障害と判定されることがない場合もあるでしょう。しかし、そういった場合でも、より早期に学習障害の判定がなされ、適切な療育を受けることができるなら、その人の持っている能力をもっと伸ばすことができる可能性があるのです。

ですから、より早期に学習障害を見つけ出すことが重要になってきます。以下に、早期発見のために参考となる読み・書き・計算の各領域における学習障害の徴候を列挙します。以下に記載するような兆候のある場合は、学習障害である可能性があるため注意が必要です。

読み

・行を飛ばして読む。
・漢字の読みを覚えられない。
・助詞や文末を読み替えたりする。
・文章を読むのを嫌がる・読書嫌い。
・文章は読めても内容を把握できない。
・単語や文節を正しく区切って読めない。
・1文字毎に拾い読みとなってスムースに読めない。
・「さ」と「き」や「永」と「氷」など形の似た文字を見誤る。
・「春」は読めても「春分」は読めない等、音読みと訓読みを使い分けられない。
・促音(小さな「っ」が入るもの)や拗音(小さな「ゃ」「ゅ」「ょ」が入るもの)撥音(てんきなど「ん」が入るもの)長音(おかあさんやニートなど伸ばすもの)などの特殊音節の読みができない。

書き

・鏡文字になる。
・漢字の線が1本抜ける。
・文字を書くのを嫌がる。
・文字の大きさが整わない。
・文字を覚えるのが難しい。
・行やマス目をはみ出す字を書く。
・黒板や教科書の文字を写すのが遅い。
・漢字の「へん」と「つくり」が逆になる。
・「止め」「はね」「はらい」が正しく書けない。
・「自由」を「白由」など漢字の細部を間違える。
・「きゅうり」を「きゅり」など特殊音節のある言葉を書き間違える。
・文中の語句や行を抜かしたり、または線をまっすぐに書けなかったりする。

読み・書き・聞く・話す

・音読が遅い。
・聞きもらしがある。
・言われたことを何回も聴き直してくる。
・口で説明されただけでは内容を理解できない。
・「知った」を「行った」などと聞き間違いがある。
・筋道が通ってまとまりのある話しをするのが難しい。
・「いきました」を「いました」などと自分勝手な読みがある。
・長い文書を言われると初めの方で言われたことを覚えていない。
・1対1で話すと聞き取れるが集団の場などで他人の話を聞き取るのが難しい。
・作文を書くときなど一定量以下の決まり切ったパターンの文章しか書けない。
・他の教科は普通にできても発音が複雑で表記と発音の差が大きい英語だけができない。

計算

・計算が苦手。
・数を数えるのが苦手。
・時計を読むのが苦手。
・九九が覚えられない。
・簡単な暗算ができない。
・筆算で桁の位置をずれて間違う。
・繰り上がりや繰り下がりの計算が苦手。
・事物の因果関係を理解することが難しい。
・数の大小、順序関係、合成、分解などを理解しにくい。
・桁の大きい数を正しく読んだり書いたりすることが苦手。
・量を比較することや量を表す単位を理解することが難しい。
・数詞とアラビア数字の対応が困難(四千七十三を400073などと間違う)。

どのように対処すればいいのか?

学習障害の子供への対応は、これはもう専門家への相談することが第一です。

専門家とよく相談して、個別の対応法を協力して行う必要があります。

児童発達支援センターや児童発達支援事業所、発達障がい者支援センターなどで相談するといいでしょう。

その他、保健所、子育て支援センターなどでも相談ができる可能性があります。

医療機関としては、小児神経科医のいる医療機関に受診するといいでしょう。医療機関を受診する場合は、前もって学習障害の治療ができるかを確認しておくことが得策です。言語聴覚士や心理士、児童精神科医への紹介がなされることもあるでしょう。学校では、LD学会で特別支援教育士の認定を受けている教師に相談できれば最良と言えるでしょう。ことばの教室などでの対応が受けられる可能性はありますが、学習障害の場合、話し言葉は障害のないことが多いので受け入れられない可能性があるため、関係部署に問い合わせておく必要があります。

学習障害に対する一般的な対応の原則について見てみましょう。学習障害を持っている子どもについて、何が苦手で、なぜ苦手なのかを明確にすることが大切です。そして、苦手である理由を理解した上で対処を考える必要があります。さらに、具体的に療育を行うときには、子どもがやる気を持ち続けることができ、療育でなされる支援手段の中で充足感や喜びを感じられるようにしなければなりません。そのためには、まずは、できたことを評価してあげることです。そして、自分を他の子どもと比較するのではなく、昨日の自分と比較するという構えを持てるようにすることが求められます。決して効果のない画一的な反復学習を行うことなく、間違いに自分で気づく力を養うことが大切でしょう。加えて、得意なところや優れた面を積極的に評価して伸ばしてあげると同時に、苦手な部分を優れた面を利用して補う方法を発展させるように支援します。では実際に具体的な方策をいくつか例示すると、下記のようのものがあるでしょう。

読み

・「ア」と「マ」、「さ」と「き」、「自」と「白」など似た文字をランダムに配置して、同じ文字を辿ってゴールに到達するような迷路を作って、ゲーム感覚でゴールを目指す。
・大きく書かれた漢字のカードを用意して、その漢字の3/4を隠して漢字を言いあて、できないときは徐々に隠す部分を2/4、1/4と少なくして漢字を当てるゲームを行う。
・画用紙などに「ア」と「マ」、「さ」と「き」、「自」と「白」などの似た文字をランダムに書いたものの中から、同じ文字を探すようなことをゲーム感覚で行う。

書き

・ちょっとだけ間違っている漢字を書いたカードを作って、どこがおかしいのかを当てるゲームをする。
・熟語などが抜けている単語のカードを作っておいて、何が抜けているかを探し当てるゲームをする。
・「バナナ食べる」などの文章を作ったカードを見せて、バナナの絵と食べることの絵を作っておいて、バナナと食べるの間に助詞を入れるゲームをする。

計算

・表に九九の計算(例えば4×5)を書いて、裏に答え(例えば4×5に対しての20)を書いたカードを作ってバラバラに配置しておき、例えば「しご?」と質問して、子どもが「4×5」のカードを探し、カードを見つけたら「にじゅう!」というように答えを言うなどのゲームをする。答えがわからない時は、子どもがカードをひっくり返して答えを確認して声に出して、「しごにじゅう」と言うなど楽しく九九を覚えるようにする。
・3桁の計算をするなら、縦に4つの線を引いて区画を3つ作り、一番左を100の位、真ん中を10の位、一番右を1の位として、103+15であるなら、
|1|0|3|

| |1|5|

|1|1|8|
というように桁の考え方を分かりやすく理解してもらう。
・100の位は100円玉、10の位は10円玉、1の位は1円玉で数字を表して、桁の考え方を理解しやすくする(321-32なら百円玉3つと10円玉2つ及び1円玉1つの中から10円玉3つと1円玉2つを取り去るなど)。

以上のように、ゲームや遊び感覚で子どもが楽しく学べるように配慮することがポイントでしょうか。

おわりに

先に述べたように学習障害は本当に分かりにくい障害です。早い時期から気づいて正しく支援しなければ、読み・書き・計算の障害は終生つづくことになります。

学校の成績や進学、就職、昇進などに大きな支障が生じることになるでしょう。しかし、支援に当たっては、強要は禁物です。支援する親や先生が子どもと互いに楽しく、協働して能力を引き出せるようにしていくことが望まれます。

そして何よりも、学習障害を持っていることが、将来の可能性をすべて台無しにしてしまう訳ではないことを覚えておいてください。李光輝(リー・クワンユー)という人物を知っているでしょうか?李光輝は、1959年から1990年までという長きに渡ってシンガポールの首相を務め、シンガポールを東南アジアを代表する経済大国に導き、シンガポール建国の父と称された人です。彼は、70歳を超えた老年期にディスレクシア(読み書き障害)であることを公表しています。そのほかにも、スティーブン・スピルバーグやトム・クルーズも自分が学習障害であったことを公表しています。学習障害があっても、このように大きな貢献をなすことができるのです。

学習障害であることはハンディではあるものの、全ての点で他の子どもより劣っているということではありません。しかし、学習することにおいてハンディがあることは事実です。そのため、より早く学習障害のあるなしを見極めて、専門家に相談することが必要でしょう。そして専門家と協働して、子どもの苦手な点と得意な点を明確にし、得意な点で苦手な点を補い、そしてさらに秀でた面を探しだし伸ばしていくことが、子どもの将来の可能性を開くことになります。ここで述べた学習障害に関する早期の徴候を参考に、少しでも早く学習障害のあるなしに気づいて、より早期の療育を受けるための参考としてください。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長